第119話 新魔王城 五階 その二

◆新魔王城 四階 舞踏の間


 冥王ネクロウスと魔王ヴァールの勝負は決着した。

 鬼王バオウと龍姫ジュラをネクロウスの支配から解放することもできた。

 戦いは一段落である。

 次にどう動くのかを決めねばならない。


 バオウの元には鬼魔族が集まっている。

「ごめんね…… 私のせいでみんなを酷い目に合わせてしまって……」

 謝るバオウに鬼たちは頭を振る。

「悪いのはネクロウスですぜ!」

 バオウは悲し気に目を伏せる。

「あんな子じゃなかったのに…… 本当に優しくて……」


「これからどうするんですかい」

 鬼たちが問う。

 バオウは皆を見つめた。

「ヴァールちゃんの国造りに参加しようと思う」


 その声はヴァールにも届いた。ヴァールは十倍に巨大化したままだ。

「いいのかや、バオウ…… 余は三百年前に失敗した。国を滅ぼし、鬼魔族をネクロウスに蹂躙させてしまったのじゃぞ……」


 バオウはヴァールを見上げる。

「違うよ、ヴァールちゃん。国ってみんなのものなんだよ。負けたのはみんなだし、造るのもみんなだよ。だから一緒にやろうよ」


 ヴァールは声を震わせる。

「汝ら…… 余を汝らの国造りに参加させてくれるかや?」

「おおう!」

 鬼魔族たちは拳を突き上げる。


 バオウはヴァールへと手を伸ばし、ヴァールは背をかがめてバオウの手を取る。二人はしっかりと手を握り合う。

「にしてもヴァールちゃん、ずいぶんと変わったよね。すごく大きいけど子どもみたい……」

「それは言わない約束にしてほしいのじゃ」


 一方、意識を回復した龍姫ジュラとは龍人ズメイにびったりだった。ジュラから腕を絡め、幸せそうにズメイを見上げている。

 普段の落ち着きを取り戻したズメイの顔は赤い。

「姫、もう敵はおりませんので離れて大丈夫でございます。そろそろ私めも元の姿に戻りませんと」

 腕を振りほどこうとするズメイにジュラはむくれる。

「また、じじいみたいな言い方をする~! 元の姿って、今の姿が元々じゃん!」

「しかし、四天王の仕事がございまして、もう行きませんと」


「だったら、あたいもその仕事をしたげるからさ。ヴァールお姉ちゃん、いいよね!」

 いい考えを思いついたとばかりにジュラはヴァールを見上げる。


 いきなり呼びかけられたヴァールは、

「うむ? その、龍王国に戻らねば龍王に叱られるのではないかや?」

「お父さんは何も言えないから全然大丈夫だし!」

 ジュラは断言する。


 ヴァールとズメイは目を見合わせる。

 たぶん全然大丈夫ではないし、文句を受けるのはヴァールとズメイになりそうだ。

 しかし言っても帰りそうにはない。


 なんだかんだ嫌そうではないズメイの様子を見るに、本当はジュラを離したくもなさそうだとヴァールは思ったが言うのは止めておいた。


「龍王から言われたら戻るのじゃぞ」

「言われたらね!」

 ジュラは軽く答える。


 そういえばジュラについて龍王国から問い合わせが来たことはないとヴァールは気付く。

「ここにいることを父は知っておるのかや?」

「知らないよ、だって教えてないし」

「何も言わず家出かや……」


「私から連絡を入れておきます」

 頭の痛そうなズメイが言う。

「そんなことしなくていいのに~」

 ジュラは不満げだ。


 四階に集結していた巫女や神官たちは、鬼魔族やズメイの治療を行っている。

 手が空いた者たちはヴァールの周辺に集まってはひれ伏し拝み始めるので、ヴァールは閉口していた。

 普段だったら助けてくれる巫女イスカや忍者クスミは率先してヴァールを拝んでいる。

 彼女たちは魔王神社を代々守ってきた森魔族の末裔だ。十倍スケールで古き神々のような姿に見えるヴァールを前にしては無理もない。無理もないがヴァールは困る。


 小さなクグツのビルダはといえば、撮像具を構えてヴァールを撮っている。

「ビルダが欲しがるに違いないのダ。いい取引材料になるのダ」


「もう、いいじゃろ?」

 ヴァールは皆に距離を取るよう手で促して、周囲に魔法陣を展開する。

 今度は慎重に空間操作効果を制御して自分のサイズを縮小していく。


 十倍、九倍、八倍、七倍、六倍、五倍、四倍、三倍、二倍……

 ヴァールは少しサイズを大きめに終わらせられないかと考えるも、背が伸びるだけでなく横にも太ってしまうので諦めて、ちょうど一倍サイズに自分を戻した。


 巫女や神官たちから残念そうなため息が漏れる。


 小さくなったヴァールをバオウが見下ろす。

「ヴァールちゃん、子どもだね……」

「言わない約束と言ったじゃろが!」


 天井を貫いた聖剣、ヘクスブリンガーは巨大化してそのままだ。

 バオウは見上げて、

「あれは戻さないの?」

「ヘクスブリンガーは城や迷宮と同じ材質なのじゃ。もう融合してしまっておる。無理に外しても水漏れが起きるやもしれぬ」


 小さくなったヴァールを見てジュラが目を丸くする。

「あれ? 勇者?」

「ヴァール陛下は勇者にして魔王なのでございます」

 ズメイが説明する。

「ん?」

「ともかくあの方がヴァールお姉ちゃんなのです」

「んん?」

 ジュラは首をひねっている。


「さあ、急いで上に行くぞよ。ルンに追いつかねばならぬ」

 上階への扉に進もうとするヴァールを、慌ててイスカが止めにかかる。


「魔王様、戦いでお疲れでしょう。五階攻略の部隊編成をお待ちくださいませ」

「そうもいかぬ。早くルンを止めねばエイダとサスケが危ういのじゃ」

 

 ヴァールは上階への扉に進む。

「ルンに追いつくぞよ」

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