第2話 ぬらりひょん再来

 団体客の予約が入った。


 団体と言っても、この狭い店内にとってはだが。


 昼頃に、恋人の美兎みうからLIMEで連絡があり。くだん田城たしろ真衣まい火車かしゃ風吹ふぶきがお付き合いを始めた。


 今日ランチの時に打ち明けられ、沓木くつきと一緒に美兎も火坑かきょうとのことを打ち明けたそうだ。


 結果は、田城が秘密を持っていたことにむくれただけだったそうだ。それで、ここに来たいと言い出したので予約となったわけである。


 よかった、と思うと同時に。良い猪肉が手に入ったので、師匠の霊夢れむ直伝の角煮でも仕込もう。


 残りは、カレーにでもしてみようか。


 半端な肉とかでカレーを仕込むのは、火坑の密かな楽しみだ。美兎にもいずれ食べさせてやりたいと思っていたので、いい機会だろう。


 角煮を仕込んでいると、匂いにつられたのか早いお着きの客がやってきた。



「やあ」



 入ってきたのは、妖の総大将とも呼ばれている、ぬらりひょんの間半まなかだった。


 今月になってからははじめての来訪である。



「少しご無沙汰ですねえ?」

「なーに? あちこちで目出たい出来事があったからだよ。知ってるかい?」

「? なにがでしょう?」



 カウンターに腰掛けたと同時に質問されたが、いきなりの問いかけに火坑はすぐにわからなかった。


 熱いおしぼりを渡せば、間半はさらにいたずらっ子のように微笑んだ。



「この店が。妖と人間のえにし。しかも、恋縁を繋ぐ場と化していると」

「……どなたがそのように」

「さあ? 僕も詳しい事情は聞いていないねえ?」



 実際は知っていそうだが、当ててみろと言わんばかりの風態。


 仕方ないので、先付けの牛蒡と蓮根のきんぴらを出した。



「……まさか、情報屋の芙美ふみさんではないでしょうし」

「ふふ。そのまさか。酔った勢いで広めてしまったらしいよ? 自分自身も、『友達』とは言え縁が繋がったからねえ?」

「……はあ」



 いつもは冷静な芙美が。余程、嬉しかったらしい。美作みまさかとはまだ友達らしいが、それでも縁が繋がったのを嬉しく思わないわけがない。



「まあ。いいことじゃないか? 種族は違えど、妖と人間の混血児も多々ある。僕の孫もそう言う感じだったしねえ?」

「……それは初耳ですね?」

「まだ最近……と言っても、十年くらいだけど。可愛いよぉー? ひ孫もいいねえ?」



 いつか。


 美兎が火坑と本当の意味で結ばれて。祖先の美樹みきのように不老長寿になってしまう。


 その生き方を、これまでは望んでいなかっただろうが。火坑と恋人になってからは、いいと告げてくれた。


 沓木と田城はどうかわからないが、同じ仲間が増えることは嬉しいだろう。まして、同じ場所で働いている先輩後輩だから。



「ふふ、それは喜ばしいことですね?」

「そうだとも。さて、今日の食材はなにがあるかなあ?」

「猪があるんですが。鍋か洋風かで仕込む時間の差が出来ますね?」

「! なら、気分は洋風だねえ? 香ってくる匂いは煮物だけど」

「今日、美兎さんが会社の方と来られるそうなので。角煮を作っているんです。洋風だとカレーになりますが」

「いいね、いいね! 小料理屋のカレーもいいねえ! あ、飲むのは熱燗にしてほしいな?」

「かしこまりました」



 さて、材料は確保しておかないと。この総大将は意外と大喰らいだからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る