第3話『再び釜揚げしらすの雑炊』

 良かった。


 初めて、恋人を家族に紹介して喜んでもらえて良かった。


 それでも、火坑香取響也が素敵すぎるのもあるが。


 重箱を返すのに、残った料理は冷蔵庫に入れて。今美兎みうは、母と一緒にたくさんの皿と重箱の洗浄と片付けをしている。


 重箱は難しいので母に任せて、美兎は皿やコップや酒器などなど。昔から両親が客を呼ぶのが好きで、こう言う手伝いは日常茶飯事だったのだ。


 今日は家族と火坑かきょうだけだったが、父もだが兄の海峰斗みほともかなり飲んでいた。火坑が実は妖怪と呼ばれる類の存在なので、浴びるように飲んでも負けてしまったが。



「いい人を見つけたじゃない?」



 重箱の水滴を拭いながら、母が声を掛けてくれた。



「……うん。すっごくいい人だよ」

「あなた、自分の夢に突っ走ってるから男運全然だったのに。合格点過ぎるわ。顔よりも中身ね? 海峰斗よりも年上なのに、ふてぶてしくもないし。やっぱり、自分のお店を持っているからかしら?」

「……そうかも」



 実際は人間じゃない、二百年以上も生きている猫の頭と体毛に尻尾を持つ妖でがあるが。その前の生では、地獄で補佐官の一人として務めていた。さらにその前は、天神となった菅原すがわらの道真みちざねの飼い猫だった。


 目まぐるしい生き方をしていたせいか、あのように落ち着きが出ているのだと思う。


 ただし、美兎のこととなると積極的になる愛らしさがあるが。


 猫顔であれ、響也きょうやの顔であれ。どちらも美兎にとっては愛すべき存在だ。


 そして、祖先である空木うつぎの血があったからこそ。あの日、にしきで火坑と出会い、こうして恋人となれたのだから。



「お料理もお母さん負けちゃったわ。家庭料理に近いように見せてくれてても、手が込んでたし。冷めてても美味しいのがすごいわ」

「うん。常連さんも多いよ?」

「いいわねえ? 一度くらいお父さんと行ってみたいわ」

「え、うん」

「あら、どうかした?」



 言い出すと思っていたが、大丈夫。


 火坑と打ち合わせした内容を伝えるまでだ。



「えっとね? お母さん達って、目の前で食材捌くの見るのとか苦手??」

「あら、そうね? 小料理屋さんだったら、そうだわ。お料理美味しくて、ついつい聞きそびれていたわね?」

「うん。で、結構エグくて私もまだ正面から見れないんだけど」

「そうね……。私はちょっと……お父さんは多分ダメね? 映画とかの流血表現が少しダメだから」

「ああ……」



 だから、昔アニメでも血が出てるのをPVプロモーションビデオを観たらビクッとしたわけか。


 とりあえず、火坑からは店に連れてくる前にその話題を出してから様子を伺えと言われたので。



「多いのは何を使うの?」

「えっと……スッポン」

「スッポン!? 美味しいの?」

「美味しい美味しい!! 実は最初にご馳走になった、スッポンの肝の雑炊おじやがすっごく美味しかったの!!」

「へ〜〜??」

「あの〜、お話中すみません」



 料理の話題に華が咲き始めたら、火坑がこちらに顔を出したのだ。



「あら、響也君。どうしたの?」



 母も、父同様に彼が気に入ったので下の名前で呼ぶようになっていたのだ。



「いえ。お父さんと海峰斗さんがかなり堪えてしまっているようなので。今の話題になっていたのに近い雑炊でも作らせてもらえたら……と」



 対する火坑も、父や海峰斗に言われてそう呼ぶようになった。



「あらあら。酔いが酷いの?」

「あのままですと。軽くて胃に優しいものを食べた方がいいですから。……良ければ、と思いまして。どうでしょう?」

「是非お願いしたいわ。私も作り方見ていい?」

「はい。家庭でも作りやすい材料でお作りしますね?」

「私も手伝います!」

「ありがとうございます」

「んー。ご飯は冷凍のしかないから……。美兎はまずご飯解凍しちゃって? だいたい1.5合分」

「はーい」



 話題もいい感じに逸れたので、今回は美兎にも最初教えてくれた釜揚げしらすの卵雑炊を作ることに。出汁は顆粒出汁じゃなくて、鰹節で贅沢に取る方法で。


 味見を母がすると、ほう、と顔が綻んだ。



「すっごく、美味しいわあ」

「お粗末様です」

「これなら、お父さん達も酔いがマシになると思うわ」



 さ、持っていきましょうとお盆に載せた雑炊を母が持って行き。


 火坑と美兎は笑いながら顔を合わせた。

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