第6話 夢の夢①

 クリスマスイヴ当日。


 怒涛のクリスマスイベントに幕を下ろすことが出来たのだった。



「お疲れ様」

「お疲れ様です〜」

「です……」



 新人として、一年目のクリスマスイベント。


 大手老舗のデパートの飾りつけもだが、終わってからの撤収作業までデザイナー陣も出向くので。


 深夜十時から始めて、夜中の三時。


 見事、美兎みう達クリエイティブチームはやり終えたのだ。作業が終わってから、沓木くつきに言われた休憩所でやっと息を吐くことが出来。彼女や他の先輩から甘いカフェモカの差し入れを受けた。


 作業は終わったが、帰宅準備もあるのでココアではなくコーヒーのアレンジメニューと言うわけだ。



湖沼こぬまちゃんは明日がある意味本番なんでしょ? 帰ったら、昼までゆっくりお休みなさいな?」

「はい……頑張ります」



 つい先日、沓木と田城で作ったブッシュドノエルは大変美味しく出来た。実は昨日の夜中に、明日、いや今日のために用意はしたのだ。


 沓木のアドバイス通り、素敵に美味しそうに出来上がったのだ。LIMEで今日の夕方に会えないか聞いておいたら、火坑かきょうの方からもお誘いがあったので嬉しかった。


 きっと、もしや、簡易的なクリスマスパーティーはしたけど。もっと大勢で催すために。


 そんな予感がしているので、美兎は撤収組全員が解散となってから経費でタクシーを使って帰宅した。これは毎年会社で経費として扱われるのでありがたいことだ。


 そして、帰宅して簡単にシャワーを浴びてから就寝したのだが。


 寝たはずなのに、美兎は真っ暗な空間にひとりで立っていた。



「……何これ?」




 夢にしては不思議な感覚。手足の感覚もあるし、頭も冴えている。なのに、どうやって来たか、まるで覚えていない。


 なんの冗談、などと考えていたら。遠くから、微かだが歌声が聞こえてきた。



「……小説とか映画だったら、お決まりの展開かなあ?」



 そう言った映画関連も就職前後であまり見なくなってしまったが、美兎自身が映画になりそうな奇跡的な出会いをしている。


 であれば、これはもしかして、その妖関連だろうか。守護である座敷童子の真穂まほもいないのに何故、と思うところはあるが。


 行くしかない、と美兎は歩き出した。




【鳴り響きー



 踊れー、や踊りゃんせー



 はやせー、はやりゃんせー



 鳴き唄よ、はや歌えー



 我はー、ぬしの祖じゃせー】





 聞いたことのない、拍子に歌詞だ。


 だが、不思議と耳には合っている気がする。


 声の主は、男性だが今まで出会った彼らの誰とも違う。


 火坑でもない。


 では、誰だと思いながら歩いていると、歌声がどんどん大きくなり、楽器の音色まで聞こえてきた。


 弦楽器らしいのは分かったが。



「あ……」




 ようやく、到着した時に見えた人影は。


 地獄の補佐官である、火坑の先輩でたしか亜条あじょうによく似た。


 薄い緑色の髪が特徴的な、優しい面立ちの男性だった。



『……来たかい、よ』

「……あなたは?」

『ふふ。まさか、ここまで覚醒するとはね? 私に見覚えがあるようにしているのは、君がそう思っているからだよ』

「……どう言うことですか?」

『なに。期は熟した。私の正体も、君が何故今年になってから妖と関わり出したのかも、わかるだろう。起きてから、あの子にお聞き? きっと答えてくれるさ』

「あの子?」



 守護についてくれている真穂のことだろうか、と聞けば、彼は首を縦に振ってくれた。



『これからも素敵な時をお過ごし? 私もすぐに会いに行こう』

「あの、あなたは」

『もう少し楽しみにしておくれ?』



 そうして、彼が楽器の弦を弾いた途端。


 美兎は夢から覚めて、枕元に置いていたスマホからはアラーム音が聞こえてきたのだった。



「おっそよー、美兎?」



 起きたら、本当に真穂が部屋に居たので。美兎は包み隠さず夢の内容を彼女に話したのだった。

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