第5話 雑な神様

 脱線ばかりで話が進まない。

 が、どうにかこうにか、図書館での夢まで話し終えた。


「まきちゃんのお願いってなんだったの?」

「そうなるよね。特に、なにも願ってないんだけど、神様は『願いは叶えた』って言ったのよ。でも、特に何も良いことはないし、やっぱり、幽霊が見えるようになったことと関係があるのだと思うんだけど」

「幽霊が見えるようになりたかった?」

「そんな風に思ったことはない」

「素敵な友達ができますように?」


 素敵って誰のこと?


「別に友達が欲しいとかは、あまり思わない。受験生だし」

「まきちゃんの心の奥底では、本当の友達、親友と呼べるものが欲しかった。神様にはそれがわかった」

「そんな馬鹿な……だいたい、どうしてそんなこと分かるの?」

「神様だから?」


 そうなんだろうか?

 深層心理では、私は友達が欲しかった? 神様はそんなことお見通し?

 だとしても、幽霊の友達って何なのさ。


「でも、そういうことなんだよな」

「そう。神様のおかげで、私はまきちゃんとお友達になれて、うれしい」


 ユウちゃんは楽しそうに笑っている。

 釈然としない気持ちではあるが、とりあえず幽霊が見えるようになった理由は、そういうことにしておこう。

 これ以上、考えてもしょうがない。


「そういえば、ユウちゃんは何が出来るの? 物とか動かせる?」

 

 これは確認しておかなければならない必須事項だ。

 母が机の中を探るのはわかったが、ユウちゃんもそういうことが出来るか、知っておく必要がある。

 映画の中の幽霊が、コインを動かすシーンを見たことがあるような気がする。

 もう、散々見られているし、今さらという気がしないでもないが、プライバシーが守られるかどうかは確認しておかなければならない。


「それは無理。触れないから、動かせない。何度も試した」

「ポルターガイスト的なことも?」

「なに? ポルタ……?」

「知らないならいい。怖いから、知らなくていい」

「……」


 とにかく、物を少し整理しておこう。

 母に見られては困るようなものがないか調べて、ついでに、いらないものは捨てる。

 机の中の整理をし、押し入れや本棚も確認する。

 特にない。

 男子だったら、エッチなものとか隠したりするのかな?

 日記を書いたこともないし、ラブレターの類ももらったことがない。

 秘密にしたいものがないってなんだろう?

 ほっとしたような、悲しいような……。


「まきちゃん、これ捨てるの?」

「どれ? ああこれね。たぶん、子供の頃に集めてたんだね」


 お菓子の景品とか雑誌の付録とかだろう。小さな女の子が喜びそうな、飾りやおもちゃの類。

 当時は宝物だったのだろうけど、今ではなんでこんなものとっておいたのだろうというものばかり。

 置いておいても仕方がない。


「かわいいのに、もったいない。この指輪ほしい」


 銀色のリングは金属製だが、赤いハート型の石の部分はおそらくプラスチックだろう。

 子供用だから、小さすぎて指に入らないし、捨ててもいいのだが、確かにかわいい。

 生意気にもケース付きだ。しょぼいけど。


「いいよ、あげる。じゃあ、ここに置いておくね」


 本棚の空いたスペースに置く。


「やったー!」


 ユウちゃんは嬉しそうに、指輪をながめていた。

 この娘は何歳で死んだのだろう。

 見た目は高校生くらいではある。だけど、少し精神年齢が低いようにも思う。




 久しぶりに、人としゃべって疲れた。だから、あっという間に寝てしまった。

 夜中に目が覚めると、うつ伏せの状態で空中に浮いて寝ているユウちゃんが見えた。

 やっぱり、幽霊だったんだと再確認して、また目を閉じた。 


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