第325話 マジックバッグの中での解体


 宿に戻って早速ブルーフレイムガリトンの調理をやってみようと思ったのだが……困ったことにキッチンではこの巨体を取り扱うことはできない。だから俺はマジックバッグの中で解体を行うことにした。


「まずはマジックバッグの中に入ってっと。」


 マジックバッグの中に入ると、そこには真っ白な空間が果てしなく広がっていて、俺が今まで収納してきた食材などが、近くにたくさん転がっていた。


「レヴァ。」


 そう呼ぶと、どこからともなく、レヴァが飛んできて俺の手の中に収まった。


「よし、後はブルーフレイムガリトンを解体するだけ。」


 たくさんの食材の中から、ブルーフレイムガリトンを見つけ出し、早速解体に移った。


「レヴァ、俺が今頭で思ってる通りに頼む。」


 そう言いながら俺は、レヴァを首の内臓がないブルーフレイムガリトンの体に当てた。すると、全身に刃の軌道がビッ……と音を立てて入り、まずは皮がズルリと剥げた。

 その次には背骨ごと真っ二つになる。こうなってしまったら後は部位ごとに解体していくだけ。


「肩ロースと、ロース……肋骨からバラ肉を剥がして、ここがヒレ肉っと。」


 豚の解体は初めてだけど、豚などの部位がどういう名称で、どういう肉質をしているのかは分かっている。今までいろんなものを扱ってきた経験でなんとか解体を進める。


「ふぅ、後は足。モモ肉を外して……残すのは豚足だけ。」


 これで一先ず残ったのは骨だけ……。


「骨は出汁を引く用に使う背骨と、焼いて食べられるスペアリブで分けておいて……よしっ、できた。」


 肉を部位ごとに解体し終えたから、ここから先の調理はキッチンでもできる。


 俺はレヴァを持ったまま、マジックバッグの中を出ると、早速ガリトンについて調査を始めることにした。


「ガリトンは倒した瞬間から、自分で自分を焼いてしまうって話だったけど、こうして火が入る前に完全に解体したらどうなるんだろう?」


 手頃な厚さに切ったロース肉に塩と胡椒で味をつけて、火をつけていないフライパンの上に置いてみると、驚くことに肉がどんどん焼き上がっていき、ものの数分で美味しそうなステーキ肉が出来上がってしまった。


「ちなみにこれ……どこまで火が入るんだ?」


 肉を触った感じ、今が一番美味しい焼き加減だけど……これ以上ガッチガチになるまで火が入ってしまうのだろうか?それも検証はしないとな。


 検証のため、そのまま放置してみたが、これ以上肉に火が入ることはなかった。つまり、最も美味しい状態まで勝手に火が入る……という認識でいいらしい。


「これは楽でいいな。」


 しばらく置いておいた肉を切り分けようと、手で触れると、冷めていてもおかしくないのに、まだ熱を帯びている。保温性もあるようだ。


「な〜んか肉の焼ける美味しそうな匂いがするわ〜。」


 クンクンと鼻を鳴らしながら、こちらにフラフラと歩み寄ってきたのはランさんだ。彼女は切り分けられたステーキ肉に目を向けると、それを指差しながら、こちらに視線を向けてくる。


「これがもしかして、ワタシが調べてきたガリトンって魔物かしら?」


「そうですよ。でも普通のガリトンじゃなくて、変異種のブルーフレイムガリトンって名前の魔物なんです。」


「ふぅん……あむっ。」


「あ。」


 ランさんは目にも留まらぬ速さで、切り分けられたステーキ肉の真ん中を指でつまむと、そのまま口の中に放り込んだ。


「んむっ!?これ、美味しいわね。脂は甘くて、肉も柔らかいわ。それに……食べたら魔力が漲ってくるわね。」


「魔力が漲ってくる?」


「えぇ、なんて言ったらいいのかしら……すごくこう、体の中に魔力が入ってくる感じがするのよ。」


「なるほど、ってことは魔力が回復したりする……のかな?」


 試しに想像魔法で小さな炎を出し、ステータスを確認して、魔力が少し減っていることを確認してから、俺もブルーフレイムガリトンのステーキ肉を食べてみた。


「んっ、なるほど。確かに何か漲ってくる感じが……。」


 食べた後にまたステータスを確認してみると、魔力が最大値まで回復していた。


「ただ食べて美味しいってだけじゃなく、魔力の回復効果まである。なるほどなるほど……。」


 他にはどんな効果があるのだろう?試しに鑑定してみようか。




~鑑定結果~


名称 ブルーフレイムガリトンの肉


備考


・ブルーフレイムガリトンは、通常種のガリトン同様に、倒すと体の熱を管理することができなくなり、自分で自分を焼いてしまう。

・この状態の肉を食べると、肉の中に残っている魔力の塊を摂取することになるため、高い魔力回復効果が得られる。

・自分の思い通りに調理をしたい場合、肉に残っている魔力を抽出してしまえば良い。




 鑑定スキルを使って、追加で分かったことがある。この自分で自分を焼いてしまう特性は、肉の中に残った魔力を取り除いてしまえば消せるらしい。そうなってしまえば、いろんな料理が作れそうだな。


「よし、じゃあ早速試してみよう。」


 俺は今晩の夕食へ向けて、ブルーフレイムガリトンの扱い方を学んでいった。


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