師からの提案
何かやることは無いかと歩き回っていると、そんな俺のことを気にかけてくれたらしい師匠が声をかけてくれた。
「ずいぶん落ち着かない様子だな柊。」
「あ、師匠。実は俺の仕事がなくなっちゃって困ってたんですよ。」
「はぁ?そんなことで困っていたのか……やれやれ、手のかかる弟子だな。」
そう言って師匠は頭を抱えると、スッと俺の手を引いて何処かへと歩いて行く。
「あの、師匠?どこに向かってるんです?」
「どことは特に決めてはいないぞ?ただお前とぶらぶらとこの辺を散歩しているだけだ。」
すると、今度はすぐそばにあったベンチに腰掛けると、俺にお菓子をねだってくる。
「ふぅ、少し休憩だ。柊、何か甘い菓子は無いか?」
「ありますよ。まぁ売り物と同じラインナップしかまだストックしてないですけど。」
「それで構わん。」
師匠にどら焼きを一つ手渡すと、彼女はパクっと何のためらいもなく大口でかぶりついた。
「んっ、やはり和菓子は美味いなぁ。これで抹茶があれば最高なんだが……。」
「残念ですけど抹茶みたいなものはこの世界じゃまだ発見してないですよ。」
「そういうのを探しに出かける旅も悪くはないんじゃないか?何もここにずっと留まる必要もないだろう?」
「まぁ、ここに屋敷をもらうまでは人間の国から獣人族の国……で、最後ここ、エルフの国まで旅をしてきていたんですけど。」
「その旅をまた再開しようとは思わないのか?」
「う~ん、確かにこの世界にある美味しいものを求めて、いろんなところを巡りたいっていう気持ちはあるんですけど……シアとかメリッサとか小さい子たちは、あの屋敷とかちゃんと体と心を休めることのできる場所があったほうが良いかなって思っていたんです。それに死の女神がまたいつ行動を本格的にするかもわからないですし……。」
「ふむ、死の女神の動向は気になるところではあるが、奴が動かない間こそ、こちらが動くチャンスでもあるとは思わないか?」
「それは確かに……。」
「よしっ、決めたぞ。」
どら焼きを食べ終えた師匠は、おもむろに立ち上がった。
「今晩、全員がそろっている状況で、多数決を取ることにしよう。」
「な、なんのですか?」
「また旅に出るか出ないかを決める多数決をだ。」
「えぇ!?」
「くく、さぁて結果はどうなることやら。今晩を楽しみにしておこう。」
愉快そうに笑いながら師匠は眼にもとまらぬ速度で俺の前から消えてしまった。
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