新部署開設


 特に俺がやることがなくなってしまったので、少し寂しさを感じながらエルフの国へと戻ってくると、アンネとフレイとばったり出くわした。


「あっ!!ヒイラギさんちょうどいいところにいたっ!!」


「社長、お疲れさまですっ。」


「2人ともどうしたんだ?フレイはともかく、アンネは今日は休みの日だったはずじゃ……。」


「実はボク達、2人で新作のお菓子の試作をしてたんだよ~。割と簡単で、量産ができるやつをね。」


「……マジ?」


 ちょうどそれも今からやろうと思っていたところだったんだけど……商品開発の仕事さえ、アンネとフレイに取られてしまていたらしい。


「じゃじゃ~ん、これがボクたちが今回作った新作だよ~。」


 どや顔でフレイが取り出したのは、大きなシュークリームだった。


「なるほどシュークリームか。」


 確かに作り方さえ覚えてしまえば簡単に作れるし、量産もできるお菓子だ。現状ある材料でも作れるという点においても合格。後は味かな……フレイが自信を持って出してくるものだし、疑いはないけど一応な。


「試食してくれないかな?」


「わかった。じゃあいただいてみよう。」


 食べてみると、焼きたてのシュークリーム特有のサクサク食感と小麦粉とバターのいい香りがまず鼻を抜けた。そして中から溢れ出してきたのは、濃厚な甘さの生クリームと……もう一つ、違う味のクリームが口の中に溶けだしてきた。


「ん、これはマンドラ茶の粉末を練り込んだ生クリームかな?」


「やっぱり一発でバレちゃった~。流石ヒイラギさんだね。」


「生クリームの甘さを、マンドラ茶を練り込んだ生クリームのほろ苦さが中和して食べやすくなってるってわけだな。なるほどなるほど。」


 試食のつもりだったが、美味しすぎてペロッと平らげてしまった。


「うん、これは採用だ。作り方はアンネも分かってるのかな?」


「はいっ、フレイちゃんにばっちり教えてもらいました。」


「なら問題なさそうだな。販売日時は……そうだな、3日後にしようか。その間にアンネは他の社員のエルフたちに作り方を伝授してくれ。」


「了解しましたっ!!」


「あと、もう一つ。これから新作のお菓子の開発部門を開設するから、その責任者にアンネになってもらいたいんだけど、どうかな?」


「逆に私なんかでいいんですか?今回のお菓子だってフレイちゃんの助けがあったから作れたようなものなんですけど……。」


「大丈夫、フレイも手伝ってくれるだろ?」


「もちろんいいよ~!ボク、お菓子作るの大好きだしっ。まかせてまかせて~。」


 こうして新たな部署が開設されることになったわけだが、はてさて、いよいよ俺の仕事はどこへやら……。


 この会社にとって自分ができることを探して、俺はぐるぐるとエルフの国を回るのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る