ミクモの頼み
エノールの工房を出た後、俺はユリと共にこの王都の不動産をやっている店を目指して歩いていた。というのも、以前社員のエルフたちの前で話した通り、この国にもちゃんとしたお店を構えようと思っているのだ。
「不動産屋は……どこにあるんだろう。」
「社長、一つ聞きたいんだが、その不動産屋というのはなんのお店なんだ?」
「物件とかを売ったり貸したりしてくれるお店だな。エルフの国にはそういう文化は無いのか?」
「基本エルフは産まれたときに、母上から家をもらうんだ。」
「えぇ!?ず、ずいぶん豪華な出産祝いだな。」
「てっきりアタシはそれが普通だと思っていたんだけど……違うんだな。」
エルフの豪華な出産祝いに驚いている最中、前方からもふもふの尻尾を揺らしながら、上機嫌に歩いてくる人物が一人……。
「むむっ?お主、ここで何をしておるのじゃ?」
「ミクモか、今は休憩時間なのか?」
「休憩ではないぞ。もう今日の分の豆腐が完売したのじゃ。故に今は家に戻るところじゃった。」
「もう完売したのか。そっちもそっちで大人気だな。」
「おかげさまでずいぶん繁盛させてもらっておるぞ~。で、お主らはどこに向かっておるのじゃ?」
「実は不動産屋を探しててさ。」
「不動産とな?お主の家でもここに買うのか?」
「いや、そろそろ出店じゃなくて、ちゃんとした店舗にしようと思っててさ。」
そう告げると、ミクモの目から光が消え、手にしていた紙袋がポサッと地面に落ちた。
「な、ななな…なぜそんなことをしようと思ったのじゃ!?い、今のままで十分良いではないか!?」
半狂乱状態になったミクモが俺の服を掴んで、必死に訴えかけてくる。
「い、いやぁ……今のままだと雨で濡れちゃうし、いろいろと不便なんですよ。」
「わ、妾はどうなるのじゃ!?エルフのお店がなくなれば売り上げ激減は待ったなしなのじゃぞ!?」
「そんなことは無いと思うけど……。」
「そんな仕打ちはあんまりじゃあぁぁぁぁっ!!頼むっ、この通りじゃっ考え直してたもっ!!」
道のど真ん中でミクモがすさまじい勢いで土下座してしまう。それのせいで道を歩いていた人たちの視線が一気にこちらに降り注いでくる。
「ちょちょっ、こんなところで土下座なんて。」
「頼むのじゃぁぁぁ!!」
「わ、わかったから、ちょっと向こうで話し合うぞ!!」
土下座しているミクモを持ち上げて、俺はアンネたちが営業している場所に、急いで走っていくのだった。
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