クラーケンをふんだんに使った献立②


 シア達がイカリングのお手伝いをしてくれている間に、俺はお刺身やイカ焼き、イカフライの準備を進めていく。


「まずはお刺身からだな。違う食感も楽しみたいから、そぎ切りともう一つそうめんにしてみよう。」


 イカのお刺身の定番といえば、イカそうめんだ。なかなか分厚いイカでやることは少ないが……ものは試しだやってみよう。


 厚いクラーケンの身を適度な厚さにスライスして、繊維に沿って、細く縦に切っていく。


「これはの字にして盛り付ける。」


 イカそうめんとはまた別皿で、そぎ切りにしたお刺身も盛り付けて、これは食べる直前まで冷やしておく。


「次はイカ焼きだ。」


 分厚く切り出したクラーケンの身に、格子状に包丁を入れて、水につけておいた割り箸を刺す。


「後はこれを特製の合わせ調味料を塗りながら、じっくりと焼くだけ。」


 合わせ調味料は、砂糖と、煮切った酒と味醂と醤油に、すりおろした生姜とニンニクを入れて混ぜ合わせたものだ。

 じっくり丁寧に塗って焼けば、生姜とニンニクの香りが立って、甘じょっぱいタレがイカをコーティングして美味しくなる。


「これの面倒をみながら、イカフライとイカリングの準備も進めよう。」


 用意するのは、パン粉と卵と振るった小麦粉。軽く塩コショウをしたイカフライ用の身に小麦粉と卵をまとわせ、最後にパン粉をたっぷりと隙間無くまとわせる。


 イカ焼きの面倒を見ながら、イカフライのパン粉付けの作業を進めていると、シア達がイカリングの仕込みを終わらせて、こちらに持ってきてくれた。


「お兄さん、できたよ!!」


「がんばった。」


「自分もいっぱい作ったっす!!」


「みんな手伝ってくれてありがとう。後は俺がやっておくから、完成を楽しみに待っててくれ。」


「「「はーい!!」」」


 そして三人はリビングの方へと戻っていった。


「良し、シア達が頑張ってくれたから俺も頑張ろう。」


 みんなに美味しい料理を食べてもらうために、せっせと仕込みを進めていると、ガチャリと屋敷の扉が開いて、師匠達が帰ってきた。


「「「ただいま〜。」」」


「おっ、帰ってきたか。」


 帰ってきた三人は今の今までずっと稽古を続けていたのか、すごくお疲れのようだ。珍しく師匠まで疲れの色が見える。


「おっ、いい匂いがしてるな。香ばしい醤油の焼ける匂い……。た、たまらんなぁ。」


「も〜、ワタシもお腹ペッコペコよ。ヒイラギ〜、ご飯まだ〜?」


「ご飯の前に汗と埃を流してきたほうがいいぞ。リフレッシュした状態で食べたほうが良いだろ?」


「そうね!!じゃあワタシがお先っ〜。」


「なっ、ランちょっと待てっ!!」


 お風呂場へと駆けていってしまった二人を苦笑いしながら見ていると、ドーナも俺と同じような表情で二人のことを見ていた。


「それじゃ、アタイもひとっ風呂浴びてくるよ。」


「あぁ、ゆっくりしてきてくれ。」


 そしてドーナもこちらにヒラヒラと手を振って、二人の後を追いかけて行った。その様子を眺めていると、いつの間にやら俺の隣にイリスが神華樹の果実を手にしながら、満面の笑みで立っていた。


「ふふふ、静葉さんが来てからまた一段と賑やかになりましたね。」


「そうだな。」


「ヒイラギさんも前より表情が明るくなりましたよ?」


「そ、そうか?」


「えぇ、とっても。」


 そんなイリスの言葉を聞いて、思わず俺は自分の顔を擦ってしまったのだった。

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