戦略的撤退


「随分苦戦したようだな、ナルダッ!!」


「チッ……妨害魔法が乱れたか。ここで増援とは面倒な。」


 上から魔法を乱れ撃ちながら、降下してくるカリンとリリン。その魔法の攻撃から逃れたナルダは、俺に鋭い視線を向けてきた。


「……今日は一度退く。次の時まで震えて待っていろ。」


 そう言い残してナルダは俺たちの前から消えた。


「逃げたか?」


「そうみたいね。」


 ナルダが去ったことを確認すると、二人は俺のところに駆け寄ってきた。


「社長、怪我はないか?見たところ服はボロボロになっているようだが……。」


「大丈夫です。」


 さっき本当に死を垣間見たけど、神気を解放したからなのか、何とか生きている。しかし、神気を解放したからどうなったのか……イマイチ自分でもわからない。


「一応これで一旦危機は去ったのかしら?」


「本当に一旦だな。奴はまた来ると言っている、油断はできぬな。」


「そうですね。」


「兎にも角にも社長は休んでくれ。此方は次の襲撃に備えるため、フィースタ達と協議を進めてくる。」


 そして一度カリン達と別れて、俺は師匠のところへと向かった。


「失礼します。」


「柊か……って、めちゃくちゃボロボロじゃないか!?」


「実はさっきナルダの襲撃があって……。」


「ナルダか、あいつは相当強かっただろう?」


「本当に強かったですよ。一回死にかけましたから。」


「死にかけたとしても、今こうして生きているじゃないか。それでいいだろう?」


「まぁ、そうですね。」


「ところで、生存報告はそのへんにして……柊、まともな服を着たほうがいいぞ?その……下が丸見えだ。」


「いっ!?」


 師匠は照れ照れと顔を赤くしながら、申し訳無さそうに言った。そこで初めて俺は自分の服の惨状に気が付いた。


「す、すみませんっ!!すぐに着替えてきます!!」


「あ、あぁ……。」


 急いで部屋から出て、新しい服に着替え始める。


(なんでリリンもカリンも言ってくれなかったんだぁ……ってかあの二人にも見られていたと思うと、めちゃくちゃ恥ずかしくなってくる。)


 鏡で確認することはできないが、おそらく俺の顔は羞恥心で真っ赤になっていることだろう。


 そして着替えを終えた後に、改めて俺は師匠の部屋へと戻るのだった。


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