小さな第一歩
神華樹の果実を一口食べると、師匠が突然苦しみ始めた。
「ぐうぅ……。」
師匠が苦しむと、彼女の体に繋がれている鎖がハッキリと具現化したのだ。
「あ!!ヒイラギさん、あれ!!」
イリスが指差した一本の鎖……師匠へと繋がっていたその鎖がパラパラと粉々に崩れていたのだ。
「中和は成功した……のか?」
「恐らくは。」
そしてしばらくして、やっと苦しみが収まった師匠は、顔中から脂汗を流しながら顔を上げた。
「大丈夫ですか師匠?」
「はぁ、はぁ……ま、まさか食べ物を口にして、こんなに心臓が苦しくなるとは思わなかった。」
無理に笑顔を浮かべる師匠へと、イリスがあることを問いかけた。
「静葉さん、死の女神との繋がりに何か変化は感じませんか?」
「あぁ、確かに感じた……。私と死の女神を繋げている何かがほんの少し弱まったことを。」
「それなら、試した甲斐がありました。」
イリスがホッと安心したように胸を撫で下ろしていると、彼女に師匠が質問を投げかけた。
「これを後何回繰り返せば、私と死の女神の繋がりは断ち切れる?」
その質問に、イリスは少し考え込み……絞り出すように答えた。
「分かりません……。静葉さんと死の女神の繋がりはとても強固で、たくさん回数を重ねないと、完全に断ち切るのは無理なんです。」
「正直に答えてくれてありがとう。だが、これを繰り返せばいつかは解放されるんだな?」
「それは間違いありません。」
「そうか……希望があるなら、この苦しみにも耐えられる。」
「私も、もっと苦しみの少ない方法を探します。ですから、諦めないで下さい。」
「ありがとう。」
そして一つ大きく師匠は息を吐き出すと、俺の方へと視線を向けてきた。
「柊、ところで今日の昼ご飯は何にする予定なんだ?」
「きゅ、急にそっちの話になります?」
「今日の分はこれで終わりだろう?となれば、後は私のご飯の時間だ。」
さっきあんなに苦しんでいたというのに、師匠は今日のお昼ご飯に胸を躍らせ、目をキラキラと輝かせている。
「ちなみに今日はパスタにするつもりでしたよ。」
「おぉ!!昼にパスタかぁ……それならカルボナーラが食べたい気分だな。」
「カルボナーラで良いんですね?」
「ベーコンは分厚くカリカリに頼むぞ。」
「承りました。」
この世界に来てから、こんな風にオプション付きで注文をしてくる人はいなかったから……腕が鳴るな。
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