希望
カリンの質問攻めから解放されると、ようやく本題に入る事ができた。
「そういうわけで、この神華樹の果実をマドゥに使ってみたいんです。」
「社長が良いのなら、使ってみる価値はあると思う。あの言葉を鵜呑みにするのであればの話だが……。」
「何も試さないよりは、幾分マシだと思います。」
あの言葉を疑って、何もしないよりは一つ明確な結果が得られる行動をしたほうが、マドゥの為になるだろう。もしそれで彼の魔物化が元に戻ったら、万々歳だし。
「……そうだな。」
一つ大きく頷いた彼女に、俺は神華樹の果実を手渡した。
「それじゃあこれをお願いします。」
「あぁ、今日の夜にでも食べさせてみよう。どうなったかは、明日の明朝に知らせる。」
「わかりました。それじゃあ、俺はこれで……。」
後のことはカリンに託して、屋敷を後にしようとすると、彼女にぐいっと腕を引かれた。
「あ、あの……まだ何か?」
「実はマドゥがな、今日の昼飯は社長の手作りの料理が良いと言っているのだ。」
「あぁ、なるほど……。」
「察したのなら話は早いな。そういう訳だから、此方を含めて四人分の昼飯を作ってくれ。」
「ちゃっかり食べる気満々なんですね。」
「当たり前だ、まだ独り立ちしていない我が子と食事をともにしない親はいない。」
「納得です。あるもの何でも使って良いですか?」
「構わん。此方が許可する。」
そして俺はマドゥとカリン……シアとメリッサの分のお昼ご飯を作ることとなってしまった。
幸いなことに今回の主役は子供たちだから、どんなメニューを作れば喜ばれるのかは、だいたい想像がついている。
頭の中にパッと思い浮かんだ、あの料理を完成させるべく調理を進めていると、背後からじっ……と見つめられているような視線を感じた。
くるりと後ろを振り返ってみると、そこには真剣な眼差しで俺の調理工程をメモしていたカリンがいた。
「む、此方のことは気にしなくて構わんぞ。ここで記録を取っているだけだからな。」
「記録ですか?」
「うむ、社長の作る料理は、食った者を虜にする魔性の何かが秘められているとしか思えなくてなぁ。それの存在を解き明かすべく、工程の一つ一つを記録しているのだ。あ、それと後で使った調味料も教えてくれ。記録に必要だからな。」
「は、はぁ……。」
意図を察せられないように、はぐらかしているが……多分、今日俺が作った料理を後で自分の手で作って、マドゥに食べてもらうつもりなのだろうな。
(それならそれで、調理のペースを落として手元とかが見えやすいようにやってみるか。その方がメモも取りやすいだろうし。)
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