エートリヒの呼び出し


 エートリヒに会うために王都を訪れると、兵士達に連れられてすぐに王城の中へと通された。そしてすでに彼が待っているという応接室の前まで案内される。


「それでは失礼します。」


「あぁ、ありがとう。」


 兵士にお礼を告げて、俺は扉をノックした。


「ヒイラギです。」


「入りたまえ。」


 入室の許可が降りたので中に入ると、中ではエートリヒが沢山の書類に目を通していた。


「来訪感謝する。まぁ座ってゆっくり話をしよう。」


 彼の正面のソファーに腰掛けると、早速エートリヒは今日俺をここに呼び出した理由を話し始めた。


「さて、時間も限られているから早速話を進めよう。まず最初は報告からだ。」


 そしてエートリヒは一枚の書類を手に取った。


「カリン殿が引き取ってくれた、マドゥという少年の母親について一つ報告しておかねばならない事ができた。」


「なんでしょう?」


「話し辛いが……つい昨日、治療をしていた病院で首を吊った状態で見つかったと報告が来た。」


「……そう、ですか。」


「どうやら元から精神状態が不安定だった所に、ヴラドウルフの凌辱が重なって限界を迎えてしまったようだ。診断書の写しを渡しておく。カリン殿にも渡してほしい。」


「わかりました。」


 エートリヒからマドゥの母親の診断書を受け取って、マジックバッグに入れた。


「……いくら自分が不幸な目にあっているといえ、自ら命を絶ってしまうとは勿体ないな。命あればこそ、不幸もあり、幸せも訪れるというのに。」


「そうですね。」


 少し悲しそうにエートリヒは一つ大きくため息を吐くと、マドゥの母親の診断書の原本を横に置いた。


「さて、一先ず悲しい話題は終わりだ。次は、獣人族の国から送られてきた、凶暴化した魔物についての報告に移ろう。」


 話題を切り替えて、エートリヒはまた何枚かの書類を机の上に広げた。


「あちらの研究機関で採取された、凶暴化した魔物の黒い血液は、どうやら人間を魔物へと変えたあの黒い液体と物質がほぼ一致しているようだ。」


「……なるほど。」


「そして更に一つ魔物化した人間の血液も、それと同じようなものに変わってしまっている。」


「その血液が誤って口の中に入るようなことがあったら……。」


「その実験の記録もある。実験では大人しい小動物を使ったのだが、結果は貴殿の想像通り……一部魔物化の傾向が見られ、凶暴化してしまった。」


「改めてとんでもないですね。」


「あぁ、だがまだこの液体を経口摂取しなければ、魔物化は防げるだけマシと言えるだろう。本当にとんでもないのは、解除方法が無いことだ。」


「それはまだ何も手掛かりを掴めてない感じですか?」


「残念ながらな。」


 そうなると、マドゥを元の人間に戻す手がかりも未だ掴めず……か。後でカリンにマドゥの実験記録を良く読ませてもらおうかな。それで何かわかるかもしれない。


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