龍化vs魔物化


 暴れる少年から一旦カリンとともに距離を取りながら、彼女に問いかけた。


「さっきの伝える必要ありました?」


「無論だ。アレを伝えてやらねば、自分が騙されていたということに気付かん。だが………。」


 言葉の途中で、チラリと見境なく暴れる少年へカリンは目を向ける。


「少々、純朴な少年には辛い事実であったな。完全に理性を失っている。」


「さっきは理性があったから話を聞いてくれたんですけど、今度はそうもいかないみたいですよ。」


「うむ。」


 いよいよ俺達をロックオンした少年は、大きな瞳から涙をこぼしながら突っ込んできた。


「社長よ、あの少年の動きを一瞬封じられるか?」


「できると思いますけど、何をするつもりですか?」


「一度此方の魔法で眠らせる。ただ、此方も魔力がもう少ない故、帰りのことを考えると放てる魔法は一発だけだ。」


「わかりました。やってみますよ。」


 そう話している間に、距離を潰していた少年は俺達を潰そうと拳を振りかざした。


「ふぅ……。」


 一つ息を吐きながら、振り下ろされる拳に手を当てて軌道を逸らした。


「グゥゥゥゥッ、アァッ!!」


 軌道を逸らした拳は目の前の床に突き刺さるが、すぐさまもう片方の腕が飛んでくる。

 その拳も同じく軌道を逸らして地面へと向かわせるが、その時違和感に気がついた。


「なっ……魔法陣!?」


 両の拳が突き刺さった地面から、大きな魔法陣が展開されていたのだ。その魔法が何の魔法なのか、いち早く気付いたカリンが声を上げた。


「っ、社長!!不味いぞ、爆発する!!」


「くっ!!」


 魔法が発動する前に、カリンのことを龍化した翼で覆う。その直後、魔法陣から眩い光が溢れて巨大な爆発が巻き起こった。


「ぐうッ……。」


 背中に感じる爆発による熱と衝撃……そして、爆発の衝撃で崩れて落ちてくるバラバラになった天井が、俺達のことを埋め尽くしていく。


「生き埋めは御免だ。ちゃんと掴まっててくださいよ。」


「うむ。」


 限界まで龍化してカオスドラゴンへと姿を変えた状態で、俺は散桜を使って一気に身体能力を引き上げた。


 そしてそのまま、一気に上へと向かって跳躍する。


「おおぉぉっ!!」


 崩れてくる瓦礫を押しのけながら、一気に俺とカリンは地上へ脱出することに成功する。


「はぁ…はぁ……この大陸にずっといるはずなのに、あんな大規模な魔法が使えるなんて、予想してませんでしたよ。」


「まったくだな。もしかすると、この大陸に適応しているのやもしれん。」


 一安心していたのも束の間、地面から少年の変貌した手が勢いよく飛び出してきた。そして、瓦礫の山を掻き分けながら爆心地にいたのにも関わらず、傷一つ負っていない魔物へと変貌した少年が姿を現した。


「グォォォッ!!」


 地上へでてくるなり大地を揺るがすような雄叫びを上げると、ギロリとこちらを睨みつけながら飛びかかってくる。


「ちょうどいい、この姿なら……受け止められる!!」


 カオスドラゴンの肉体で、タックルするように飛びかかってきた少年を真正面から受け止めた。


「ぐぐ……止めましたよ!!」


「あぁ、上出来だ。」


 カリンは手のひらに小さな魔法陣を展開させると、俺の体を駆け上がって少年の額に手を当てた。


。」


 彼女がそう唱えた直後、少年の体は魔物から元の姿へと戻っていき、完全に元の姿に戻った時には安らかに寝息を立てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る