トラブル?


 脱走騒動があってから1週間ほどが経つと、ようやくエートリヒは他国との交流を再開した。


 それと共に、人間の国と獣人族の国とでお菓子の販売も再開し始めていた。人間の国ではハリーノが……獣人族の国ではユリがお店のリーダーとなり、販売をしていた。


 今日はユリの方を手伝いに来ていたのだが……カリンからもらった、遠距離でも話ができる携帯電話のような魔道具が着信を知らせて、ブルブルと震えたのだ。

 俺以外にこれを持っているのは、作った本人であるカリンと、アンネとハリーノ……そしてユリしかいない。


「ヒイラギだ、どうかしたか?」


「あ、社長〜ハリーノです。ちょっと大変なお客さんが来ましてぇ……。」


「大変なお客さんが来た?っていうと、どんな?」


「えっと〜、お菓子を全部ほしい〜って言ってるんですけどぉ。」


「なんだって?……わかった、すぐに行く。」


 魔道具をポケットにしまって、俺はユリに一声かけた。


「ユリ、ちょっとハリーノの方でトラブルが起こったらしいから、行ってくる。」


「わかった、お店は任せてくれ。」


「頼んだぞ。」


 そして人間の国へと繋がっている転送結晶を使って、俺は人間の国へと飛んだ。飛ばされた場所から、走ってハリーノ達が営業をしている場所へと向かう。


 すると、見知ったある人物が列の先頭に並んでいるのに気がついた。その人物は俺が来たことに気がつくと、ぱぁっと表情を明るくして、こちらに手を振ってきた。


「あ〜っ!!人間さん!!」


「お前だったのか、。」


 満面の笑顔でこちらに手を振っていたのは、しばらく姿を見ていなかったウォータードラゴンだった。


「お久しぶりですねぇ〜。」


「久しぶりだな。とりあえず、こっちに来てくれ。ハリーノ、営業は引き続き頼む。」


「はえぇ?お菓子食べたいですぅ〜!!」


 ズルズルと彼女を引っ張って飲食スペースへと向かう。一先ず彼女を座らせてから、話を聞くことにした。


「なんでまた、こんな所にいるんだ?」


「人間さん達が、噂してたんですよぉ。美味しいお菓子がここで売ってる〜ってぇ。」


「なるほどな。」


「でもでも、もっと不思議なのが〜、どうして人間さんはエルフとあんなに親しそうなんです?」


「それは、あのお菓子を売ってるお店の代表が俺だからだよ。」


「えぇっ!?」


 俺が代表だという事実に、ウォータードラゴンは大層驚いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る