禁術使い


 会議の後、俺はすぐにエルフの国へと戻りカリンの屋敷を訪ねた。そして例の液体を見てもらう。


「ふむ、人間を異形の存在へ変える液体か。確かに、この液体からは嫌な魔力を感じる。」


 瓶に詰まった黒い液体を眺めながら、カリンは言った。


「この魔力は数百年前に一度感じた事があるぞ。」


「本当ですか?」


「あぁ、忌まわしい禁術使い……の魔力に違いない。」


「禁術使いナルダ……そいつはどんな奴だったんですか?」


「此方をも超える、類稀なる天才だ。全ての属性の魔法を極め、禁術をも軽く使いこなす。」


 その説明だけでも、どんなにヤバい奴なのかは容易に想像できる。更にそれだけではないらしく、カリンは説明を続けた。


「あの時代の魔法使い達が禁術と定めた魔法を、まるで息をするかのように扱うナルダを危険と判断し、此方を含め名のある魔法使い達が討伐しようとした……しかし、結果は敗北。此方らが束になってかかろうが、奴の足元にも及ばなかったのだ。」


 悔しそうな表情で、カリンは語った。


「そのナルダって魔法使いの種族は?」


「社長と同じ人間だ。故に本来なら死んでいるはず。しかし、この液体からは確かに奴の魔力を感じる……それも新しいものがな。」


「ってことはつまり……。」


「あぁ、ナルダは間違いなく現代でも生きている。恐らくは禁術の肉体転換を使ってな。」


「その禁術はどんな効果があるんです?」


「その名の通り、自らの肉体を他の肉体へと移す魔法だ。年老いて、死にかけの肉体を他者に押し付けることによって、自分は新しく若い肉体を手に入れ、更に長く生きる。」


 そりゃあ禁術にされるわけだ。もう効果がメチャクチャだ。それを使えば、自分だけは半永久的に生きられる。


「本当は、それを止めるために此方らがナルダを殺すはずだったのだが……。結果はさっきも言った通りだ。」


 これはかなり不味い状況なのかもしれない。そのナルダって奴が作った液体を飲み、新しい腕を生やしていたあの男は、死の女神から直々に力を授かったとか言っていた。

 つまり、この液体が仮にナルダという魔法使いの作ったものであれば、ナルダは死の女神の一味ということになる。


 死の女神の配下なら、この先ぶつかる事もあるだろう。そうなった時、負けないように今のうちに力をつけておく必要があるな。

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