ドーナ、ラン魚への挑戦①


 ドーナとランを連れてキッチンに立つと、早速二人が三枚下ろしの練習に買ってきたという体長約30センチ程の魚を取り出した。


 初めての三枚下ろしの練習台にしては少し大きいが、このぐらいの大きさの魚じゃないと学べないこともあるからな。


「よし、それじゃあまずは魚の水洗いから学んでいこう。」


「「水洗い?」」


 二人は揃って首を傾げた。


「魚を水で洗えばいいのかい?」


「まぁ、言葉通りに解釈するならそうなるな。でも、そうじゃない。魚の水洗いっていうのは、鱗を取って、頭を落として内臓を取り除き、魚の血をしっかりと洗う。この三つの工程をひっくるめて水洗いって言うんだ。」


「「へぇ~……。」」


 二人はサラサラとメモ帳に今の説明をメモしていく。


「ってことは、今からその水洗いってやつをやればいいのかい?」


「そうだな。まずは俺が手本を見せよう。」


 ビーミーを一匹まな板の上において、鱗を取り、頭を落として内臓を抜く。そして最後に血合いを綺麗に水で洗って水気を拭き取れば……。


「ほい、これで水洗い完了。さぁ、今度は二人の番だ。まずは鱗を取るところからやってみよう。」


 そして二人は魚の鱗を鱗かきで取り除いていく。ここは簡単だから、何も問題はないだろう。


「こんな感じでいいかしら?」


「一回見てくれるかい?」


「あぁ。」


 二人の鱗を取ったビーミーを見てみると、表面上は綺麗に取れているが、二人ともある部分にほんの少し鱗が残っていた。


「二人とも、ここの背ビレと尻ビレの際どい所に鱗が残ってるな。」


「う……残ってたのね。」


「そこまで気づかなかったよ。」


「ここは誰でも鱗を取り忘れやすい所だ。だが、ここの鱗も取らないと、お刺身にする時に混入するかもしれないから、要注意だ。」


 俺は二人の取り残した鱗を、包丁の切っ先と刃元を上手く使って取り除く。


「今俺がやったように、この部分の鱗は包丁の切っ先と刃元を上手く使えば取れるから、次は意識してみてくれ。」


 鱗が取り終わったところで、今度は頭を落とす工程に移る。


「それじゃ、今度は頭を落とそう。これは、魚の頭の付け根から、胸びれへ向かって斜めに包丁を入れるんだ。裏面も同じ。」


 解説どおりに二人は進めていく。


「よし、次は繋がってる中骨を切り落として、いよいよ頭を落としてみよう。頭を落とすコツは関節に包丁を入れることだぞ。」


 ここまでは順調だった二人だが……二人ともなかなか魚の関節に包丁が入らない事に苦戦していた。


「こ、コイツの関節どこよ!?全然わからないわ。」


「ここ?違う……ここでもない。わ、わからないねぇ。」


 二人が、苦戦し始めたところで俺はメリッサを呼んだ。


「メリッサ、アレはもう描けたか?」


「うん…ばっちり!」


 そしてメリッサは、あるものを俺に見せてくれた。


「うん、素晴らしい出来だ。ありがとう。」


 メリッサに、お願いしていたあるものを手にして、俺は苦戦している二人の元へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る