仲間のアジトへ


 男が吐いた仲間のアジトへとすぐに足を運ぶと、そこでは一人の男がせっせと荷物をまとめている所だった。


「動くな。」


 背後から男へそう声をかけると、ビクッと体を震わせながら、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「な、なんでここがわかった?」


「お仲間が洗い浚い吐いてくれたよ。」


 ドーナがそう言うと、男は表情に怒りを宿しながらギリギリと歯軋りする。


「あんの野郎……仲間を売りやがったな。」


 怒りを露わにしていた男だったが、突然ニヤリと笑い、テーブルの上にあった何かの結晶を手に取った。


「だが残念だったな!!オレはコイツで逃げられ……。」


 恐らくは脱出するための何かだったのだろう、男が勝ちを確信してそれに魔力を込めた刹那、レイがボソリと呟く。


「結界魔法……封魔。」


 俺達には聞こえていたその声は、男には聞こえていなかったようで、結晶を高々と掲げながら今か今かと転移するのを待ちわびている。


 しかし、一向にその時はやってこない。


「な、なんでだ?なんで発動しない!?て、転移しろ!!」


 焦って叫ぶ男にレイが近づいていくと、彼女は男が手にしていた結晶を奪い取る。


「残念じゃがこいつはもう使い物にならん。」


 そう言って、レイは手にしていた結晶を粉々に握り潰す。その瞬間、今まで勝ちを確信して薄ら笑みを浮かべていた男の表情がガラリと変わり、表情に絶望が張り付いていた。


「この空間にワシが魔力の使用を禁ずる結界を張った。ワシが許可した者以外は、今ここで魔力を使うことはできんのじゃ。」


「そ、そんな魔法聞いたこと無いッ!!」


「そうじゃろうなぁ。」


 レイはうんうんと頷きながら、男へと人差し指を向ける。


「まぁ、眠れ。貴様とここで話すことはもうない。」


「う……く、くそ。」


 バタンと男は倒れ込むと、寝息を立て始めた。


「一丁上がりじゃ、主〜♪」


 クルリとこちらを振り返ると、レイはボフッと俺の腹に頭を埋めてくる。


「褒めてたも〜。」


「はいはい、頑張ったな。」


 レイの頭を撫でていると、隣にいるドーナとランの二人から、妬むような視線を向けられているのを感じる。


「はい、もう満足だろ?」


「もう少し撫でて欲しかったがのぉ〜。まぁ、主の愛情をたっぷりと補充できた故、良しなのじゃ。」


 俺から離れると、レイはドーナとランの方をチラリと見て、ニヤリと笑う。


 今このときから、ドーナとランの二人がより一層今回の依頼に対して積極的になったのは言うまでもない。

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