ベテラン捜査員ドーナ②


 レストの関所にたどり着いたところで、俺は兵士にエートリヒから貰った書状を見せた。


「お、お疲れ様です!!」


「そんなに畏まらなくていい。普段通り、振る舞ってくれ。……ところで、コイツの顔に見覚えは?」


 ここに潜伏していると情報のあった犯罪者の顔を兵士に見せる。しかし、彼は首を横に振った。


「いえ、毎日一人一人ここを通る人の顔はしっかりと確認していますが……見覚えがありません。」


「ふむ。」


「じゃあ直近で何か小さい犯罪とか起こってないかい?例えば……食い逃げとか。」


 そうドーナが問いかけると、兵士はあることを思い出したようだ。


「そう言えば、食品店で万引きがいくつか……。」


「それはいつ起こって、どのぐらい食べ物が盗まれたかわかるかい?」


「ちょっと待ってください。確かまとめた資料があったはずです。」


 そして兵士が持ってきた資料をドーナは受け取ると、じっくりと目を通す。


「被害にあったのは2軒……パン屋と八百屋。盗まれたのはパン5個とアプルが3つ。なるほどねぇ。」


「何かわかったのか?」


「盗まれたのは一昨日。で、盗んだのは一時の食欲を満たすためのパンとアプル。その盗んだ犯人がコイツだとしたら……こんな少ない食事で足りるわけがない。となれば、もう近々また盗みに来るんじゃないかい?」


「なるほど……となればやる事は張り込みってわけか。」


「そういうことさ。」


 彼女の推察を信じて俺達は被害があったという、色々なお店が並ぶ通りへと赴いていた。


「えっと、ワタシ達の目の前で食べ物を盗む人間を捕まえればいいってことよね?」


「そうだよ。」


「ワシらから逃げられる筈もなし。簡単じゃな。」


「それじゃあここからは手分けして見張ろうか。みんななるべく一般人に紛れてくれ。」


 そして全員でバラバラに別れると、通りを歩く一般人に扮して盗みを働こうとする輩を警戒する。


(まさか、異世界に来てこんな警察みたいなことをやることになるなんてな。)


 多分日本にいたらできなかっただろう。これもいい経験だな。


 それから周りの人達に目を光らせながら通りを歩いていると、向こうの方でズン……と響くような音が鳴り響く。それとも同時に人々が悲鳴を上げながらこちらに逃げてきた。


「あの方向は……ランが警戒してたところだな。」


 俺は人の流れに逆らって、その音がした方へと向かうのだった。

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