パティシエ フレイ


 そしていざ、ミルタさんが安定供給できるという果物の品定めが始まったのだが……。ここでフレイの経験が爆発することとなった。


「ん〜、香りが薄いし果肉が水っぽい。これはダメ。こっちは……。」


 次々に果物の味見をして、お菓子に使える果物とそうでない果物を分けていく。しかもただ果物の果肉を味見するだけじゃない。彼女は果物の皮も食べてみて、香り等もちゃんと確かめていたのだ。


「フレイ、どこでその味見のやり方を覚えた?」


「え?ヒイラギさんが持ってた本に載ってた人がこうやってたよ。」


「なるほど、納得した。」


「果物の利用できる部分は果肉だけじゃない。皮も利用するんだ……って本に書いてあったから。」


 レシピだけじゃなく、そういう部分までしっかりと読んでいたのか。これは成長が早いわけだ。


 そしてフレイはあっという間に分別を終えたのだが……最終的には、彼女がお菓子に使えると判断した果物はなんと、一つにまで絞られた。


「ボクが食べてみた感じ、この果物はお菓子に使えると思うよ。他の果物は生で食べたほうが美味しいと思う。」


「ふむ。」


 呆気に取られているミルタさんの前で、フレイが厳選した緑色の果皮に包まれた果物を、俺も食べてみることにした。


「おっ、柑橘のいい匂いだ。」


 皮を剥いただけで、ぶわっと心地の良い柑橘の香りが鼻を突き抜ける。味はどうかな?

 中身の果肉を一つ口の中へと放り込むと、プチプチと弾けるように口の中に甘酸っぱい果汁が溢れ出す。その甘酸っぱさの奥にはほんの少し、ほろ苦さが隠れている。


「ん、なるほど。フレイが残した理由がよくわかった。」


「それ、タルトとかムースとか……あとチーズケーキに丸ごと絞った果汁入れたら美味しいと思うんだ。」


「はは、お菓子の名前までポンポン出てくるか。」


 いったい俺がいなかった間に、どれだけ本を読んで勉強したのだろう。この果物に適したお菓子の名前がポンポン出てくるだけで、彼女が猛勉強し、それを頭の中にきっちりと刻んでいるのがよく分かる。


「でも、どれもヒイラギさんのお店で出せるものじゃないんだよね。材料的に……。」


「いや、多分作れる。」


「え!?」


「フレイ、このあと時間まだあるか?」


「あるよ!!」


「じゃあ、一回エルフの国に行こうか。ミルタさん、この果物1個買っていきます。」


「え、えぇどうぞ。」


 そして俺とフレイは一度ミルタさんのお店を後にすると、エルフの国へと向かうのだった。

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