シラフのユリ


 翌日明朝、俺はシンにエンリコの生首が奪われたことを伝えに行った。彼が尋問を担当していた獣人の安否を確認しに行ったところ、あのフードの女が言っていた通り無事が確認された。


「むむ……本当にエンリコの首の回収が目的だったというわけか。」


「そうみたいだ。」


 念の為、体の検査をするために運ばれていった獣人を見送ると、シンはあることを問いかけてくる。


「時にヒイラギよ、その死の女神の手先とは戦わなかったのか?」


「ん〜……多分マトモに戦っても勝てなかったかな。」


「なんと!?」


 あのフードの女は、最初戦った時はこの世界のスキルとか魔法とかに慣れていない様子だった。だから、まだ慣れていないそれらでゴリ押せば……チャンスはあったかもしれない。

 でも、あの時からかなり時間は経った。彼女ももちろんそれは対策してるだろうから、根本的に技術が上回っている彼女に打ち勝つのは、なかなか厳しいだろう。


「やはり死の女神の配下……侮れん。」


「だがまぁ、もしかすると戦う必要すらもなくなるかもしれないが……。」


「それはどういうことなのだ?」


「誰もが誰も、死の女神に従順ってわけじゃないってことさ。っと、そろそろ営業の時間だ。俺は準備に行ってくるよ。」


 シンに別れを告げて、俺は昨日出店を出した場所へと走っていく。すると、既にそこではユリとハリーノ達が準備を始めていた。


「あ!!ヒイラギ社長〜おはようございま〜す。」


「お、おぉ、おはよう……ヒイラギ社長。」


「「「おはようございま〜す!!」」」


「みんなおはよう。」


 ユリ以外のみんなはいつも通り元気なようだが……ユリは何故か今日は顔が少し赤い。


「ユリ、二日酔いか?」


「ち、違うぞ!!酒は残ってない。た、ただ……社長やみんなに酔った姿を見せてしまったのが、は、恥ずかしいんだ。」


 真っ赤になった顔を両手で覆い隠しながら、ユリはフルフルと顔を横に振る。


「ま、まぁ酒を飲めば誰だって自分を忘れることはある。」


「だ、だがそれでもだな……もぐっ!?」


 つべこべ言っているユリの口の中に大福を突っ込んだ。


「自分に都合の悪い事は、美味しいものを食べて忘れるのが一番だ。」


「むぐ……。」


「さ、そんなに恥ずかしがってると、お客さんに笑われるぞ。」


 渋々大福を食べているユリの頭をぽんぽんと撫で、今日もまた営業が始まった。

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