イリスの見解


 フードの女が帰った後、一先ず仕込みを終わらせて俺はイリスとともに彼女のことについて話し合っていた。


「彼女が死の女神の転生者……。」


「イリスから見て、どうだったんだ?」


「底のない闇と負の感情に身も心も包まれているようでした。あれは、死の女神によって作られた感情ではありません。恐らく、彼女自身がもともと抱えていたものだと思います。」


「俺と話していた時はそんな感じはしなかったけどな……。」


「私もそれが不思議でした。彼女はヒイラギさんと話しているときだけは、負の感情が消えていたんです。」


「俺と話しているときだけ……う〜ん、同じ転生者だから話しやすかったのかな?」


「それよりも何か、ヒイラギさんに特別な思いがあるように私は見えました。」


 確かに俺自身、彼女と話している時は何故か他人と話しているような感じはしない。それがどうしてなのかはさっぱりわからないが。


「彼女に関してはわからないことだらけだが……一つだけ、今日わかったことがある。」


「彼女は自分の意志で死の女神に従っているわけではないということですね。」


「あぁ。」


 ただ、彼女を縛り付けていたあの鎖……あれは凶悪なものだった。実はあの時、こっそりブレスオブディザスターで消し飛ばそうとしたのだが、そもそも彼女に辿り着く前に何かに弾かれてしまっていたのだ。


「解決の糸口を見つけられれば、もしかすると死の女神の陣営が一人減らせるかもしれないな。」


「そうですね。きっと簡単なことでは無いでしょうけど……。」


「そうだな。」


 簡単なことじゃないのは、今までだってそうだった。獣人族の国を救ったり、人間の国で革命を起こしたりな。


「ま、あっちにも話のわかるやつがいるってだけで、気持ちがぜんぜん違うよ。」


 そう言ってコーヒーを飲むと、イリスが少し考えながら、フードの女のある行動を不思議がっていた。


「でも、彼女はどうして私に感謝をしたのでしょう……。肉体をこの世に転生させたのは死の女神。私は何もしていないのに。」


「確かにそれも妙だな。」


 あの場から退散するため、イリスの気を逸らしたかった……というわけでもなさそうだった。

 あの深々と頭を下げたお辞儀は……しっかりと感謝の意が込められていたと思う。そうなると、本当にイリスに何かを感謝していたと考えるのが自然か。


 ……やっぱり彼女はわからないな。


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