ユリの贈り物


 今日用意していた在庫が無くなり、人間の国での営業は大成功に終わった。この国でこれだけ人気が出るのなら、明日獣人族の国で営業をしてもきっと彼らの心を……いや、胃袋を掴めるはずだ。


「よし、みんなお疲れ様。よく頑張ったな。」


 そう声をかけると、彼女達はつかれた表情を見せずに、ニコリと笑った。


「もっと疲れるかと思っていたが……意外といつもと変わらないかもしれない。」


「ここに来てくれた人は、みんな美味しいものを求めて来てる。その目的は、エルフも人間も同じだからな。」


 普段相手にしてるエルフとは、話す言語や容姿は違うが、ここにあるものを食べたいという目的は、みんな同じ。だからこそ、普段とは何も対応は変わらないのだ。


「さて、みんなどうだったかな?この調子でこれから他種族の国で営業はできそうか?」


 そう問いかけると、社員のみんなは嫌な顔一つせずに頷いた。


「ありがとう。もし途中でやっぱりエルフの国の営業に戻りたいとか……そういう気持ちになったら遠慮なく言ってくれ。」


 嫌なことを無理にやらせるのは俺の方針には合っていない。この会社のモットーはあくまでも無理なく、楽しくだ。


「それじゃあ、帰ろうか。みんな結晶は持ってるな?」


 みんな各々ポケットから、エルフの国へと繋がっている転送の結晶を取り出した。そしてそれを使おうとした時、ユリがこちらへ駆け寄ってくる。


「しゃ、社長!!帰る前に少し時間をもらっても良いだろうか?」


「ん?どうしたんだ?どこか行きたいところでもあるのか?」


「い、いやそういうわけではないんだが……。す、少し失礼する。」


 すると、ユリはこの国に来る時に持ってきていた紙袋を手にすると、護衛の兵士達の元へと駆け寄っていく。


「こ、これは今日1日アタシ達を護衛してくれたお礼だ。良ければみんなで食べてくれ。」


 そして兵士たちからありがとうの言葉を聞く前に、彼女は少し顔を赤くしてこちらに戻ってきた。


「何を渡してきたんだ?」


「母上に言われたのだ。アタシ達エルフは、この国では特別扱いされる……それ故にお礼を忘れてはならんと。」


「なるほどな。」


「ち、ちなみに中身はアタシが作ったどら焼きだ。生憎、喜んでもらえるようなもの……と言われれば社長が教えてくれたお菓子しか思い浮かばなかった。」


「でもそれ自分で1から作ったんだろ?」


「ま、まぁ……そうだな。」


「ならそれはちゃんとユリの心がこもった贈り物だ。」


 ポンポンとユリの頭を撫でた後、改めて転送の結晶を使ってエルフの国へと戻るのだった。


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