人間の国へいざ出店


 三種族の面会から数週間後……いよいよ俺の会社の社員となったエルフ達に、他国での営業を始めることにした。


「うっ……これからアタシ達人間の国に行くんだな。」


「ユリさん、大丈夫ですよぉ〜。今日はヒイラギ社長もついてきてくれますしぃ。」


「その通りだ。それに何かあったとしても、護衛がつくから大丈夫。」


「そ、それでも社長以外の人間に会うのは緊張するぞ。」


「まぁそれは慣れていくしかないな。無理そうだったらユリは獣人族の国を担当してもいいぞ。」


「い、いや!!何事も挑戦だ。頑張ってみる。」


 ユリの決意が決まった所で、俺が先頭に立って人間の国へ繋がる秘密の抜け道へと向かい、魔法陣の描かれた大木の根本に立つ。

 そして、魔法陣に手を触れて魔力を流し込んだ。


 すると次の瞬間には、全員人間の国の王都の近くに転移してきていた。


「よし、みんないるな?」


 一人ずつついてこれているか確認し、全員揃っていることを確かめてから、王都へと向かう。

 関所に辿り着くと、そこにいた兵士がこちらにビシッと敬礼した。


「ヒイラギ様にエルフの皆様、ようこそいらっしゃいました!!」


 前日に予めエートリヒに王都で商売をすることを伝えていたため、関所につくとすぐに護衛をしてくれる兵士達が集合した。


「場所は確保してありますので、どうぞこちらへ。」


 兵士達に周りを囲まれながら、俺達は営業を許可された場所へと向かう。その道中、ユリとハリーノが緊張しながら辺りを見渡していた。


「に、人間がたくさんだ。」


「大丈夫だと思ってましたけどぉ……実際に囲まれてみるとなかなか緊張しますねぇ。」


 緊張しているのは他の社員のエルフ達も同様で、数多い人間に圧倒されてしまっていた。

 まぁ、100年も他種族との交流を絶ってきたのだから、これも当たり前。ゆっくりと慣れていくしかない。


「着きました。」


「ありがとう。助かったよ。」


 案内してくれた兵士達にお礼を告げて、みんなに声をかける。


「さ、今日は初めての他国での営業だ。慣れない環境だから緊張するとは思うが、いつも通りやればそれでいいから。」


 そしてみんなで屋台の準備を進めていると、徐々に緊張の糸が解れ始めている様子だった。これならきっと大丈夫。

 いざ営業が始まれば、いつもと何ら変わらないってことが実感できると思うしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る