エルフの礼装


 翌朝、目が覚めると目の前にカリンの顔があった。


「おはよう社長。よく寝られたか?」


「まぁ、ほどほどには……。ちなみにどうして俺の上に乗っかってるんです?」


「昔の文献で、人間はこうやって起こされると喜ぶと読んだことがある。社長は違うのか?」


「多分、人それぞれだと思いますけど……。」


「ふむ、そうか。」


 少し残念そうにカリンは俺の体から降りた。


「さて、社長……準備ができたら獣人族の国へ向かおうと思うが、やることはあるか?」


「どら焼きだけ、作らせてください。」


「わかった。…………此方の分も作ってくれてもよいのだぞ?」


「わかりました。」


 カリンとともにリビングに向かうと、そこには普段と少し違う服装のフィースタがいた。


「おはようございます。」


「おはようフィースタ。今日は少し服装が違うんだな?」


「はい、他種族の国王との面会ですから……この国に伝わる礼装を身に纏いました。」


「ちなみに、この礼装の設計を考えたのは此方だぞ。」


 どうやらエルフの礼装を設計したのはカリンらしい。この大きく開いた胸元とか……ヒラヒラの羽衣の間から見える太ももとか……これが礼装で良いのだろうかと、思わず心配になるデザインだ。


 チラリとカリンの姿を見てみるが、彼女は礼装らしい服装に身を包んではいない。不思議に思っていると、少しムッとしながら彼女はこちらを向いた。


「社長……今考えていることはわかるぞ?どうして此方がこの礼装に身を包んでいないのか、気になっているのだろう?」


「えっ!?ま、まぁ……そうです。」


 フワリと彼女は宙に浮くと、俺の耳元でコソコソと囁いた。


「どう考えても此方が着れる服ではなかろう!?フィースタのように胸も尻もデカくはないのだぞ?」


 じゃあどうしてそんな設計にしたのか……と聞き返したかったが、更にカリンの怒りを煽りそうなので、グッと飲み込んだ。


「し、失礼しました。」


「ん……よろしい。」


 すると、カリンはフィースタが淹れてくれたマンドラ茶を口にする。


「社長、此方はどら焼きを強く所望する。」


「わかりました。」


 先程の無礼のお詫びに……と俺は、シンとエートリヒへのお土産で持って行く分と、カリンが食べる分のどら焼きを用意したのだった。

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