カリンの願い


 事前に決めていたお願いを彼女に伝えると、意外にも彼女はきょとんとした表情を浮かべた。


「……なぁ社長よ、自分でそれを言っていて少々回りくどいとは思わんか?」


「そうですか?」


「そうだろう、わざわざ他種族の国王に会え……ではなく此方等に他種族と関係を持ってほしいと、そう願えば済む話だろう?」


「確かにそう言ってしまえば済む話ではあります。でも、過去に人間がエルフや獣人達に対して行った所業を考えると、一方的に関係を持てなんて言えませんよ。」


 そう俺の考えを伝えると、彼女はぽかんと一瞬固まった後、くつくつと愉快そうに笑い始めた。


「まったく、そなたは本当にお人好しよ。好きな願いを聞き入れてやると言っているのに、まだ此方等エルフのことを考えているとは。」


そしてひとしきり彼女は愉快そうに笑い終えると、こちらの目の奥をじっとのぞき込みながら、一つ頷いた。


「そなたの願いは此方が聞き入れた。ただ、生憎此方等は他種族の王と面会をする手立てがない。」


「それなら大丈夫です。人間の国王と獣人族の国王は、俺の知り合いなので。」


「そういえば、そなたは獣人族を救ったという勇者でもあったな。此度の人間と獣人族の関係ふ修復にも、1枚噛んでいるのではないか?」


「……否定はしません。」


「ん、まぁ今はそれでも良い。では此方等の面会の場作りは、社長……そなたに任せても良いのだな?」


「えぇ、任せてください。」


 こうして、カリンに他種族の国王との面会を約束させることができた。後は、エートリヒとシンと話を交えてみて、これから交流を持ったとしても問題ないかどうか、彼女達に判断してもらおう。


「さて、社長の願いは聞き届けた……というわけで、今度は此方の願いも聞いてもらおうか?」


「へ?」


 ニヤリと口角を吊り上げながら、カリンはそう言ったのだ。


「なぁに、案ずることはないぞ。簡単な事だからなぁ。もし此方の願いを聞き入れてくれるのなら、面会の後……他種族との交流を前向きに検討しよう。」


 そこまで言えば俺が断ることは無いと、彼女はわかって言っている。間違いない。


「わかりました……その願いというのはいったい?」


「そなたがいなくなったとしても、あの甘味を作り続けられる後世の育成……そして、そなたが留守の間会社を守る代理人を育成せよ。」


「なるほど……。」


 それぐらいならお安い御用だ。もともと俺がいなくなっても、社員のエルフ達だけでお店を回せるようにはするつもりだったし……。


 そして俺はカリンの願いを二つ返事で聞き入れるのだった。


 

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