ヒイラギ、社長になる
翌日……結局徹夜して仕込みを終わらせたまま、俺は屋台の営業を開始した。もちろんお手伝い募集の張り紙も張り出してな。
ちなみにお手伝い募集の張り紙には、できるだけ興味を引けるように……『手伝ってくれる人には販売しているお菓子を無料にします。』と破格の条件も添えていた。すると、面白いほどにエルフたちはその張り紙に興味を示していた。
そして今日もカリンが新作のスイーツを求めて来店したのだが……その張り紙を見てあることを問いかけてきた。
「お前、この国で事業でもやるつもりか?」
「いやいや、そんなつもりはないんですけど。流石にそろそろ手が足りなくなってきていて……。」
「なんだ、別に構わんのだぞ?我が子たちはお前の作る甘味に半ば心酔しているからな。それにお前が老衰で死んでしまった後、この甘味を作り続ける継承者は必要だ。まぁ門外不出のものにしたいのであれば、無理強いはせんよ。」
意外にもこの国で事業をやる許可をもらうことができてしまった。そうなってくると話はだいぶ変わってくる。
「じゃあせっかくなので、お菓子を作る会社を作ります。」
「む、良いのか?この甘味の作り方はお前しか知らないのだろう?」
「別に構いませんよ。俺はどっちかって言うとこういうのはどんどん広まってほしいって思う人間ですから。」
「ふむ、では今ここに……
「しゃ、社長!?」
「なんだ、一つの会社の長故に社長だろう?此方は何か間違っていたか?」
「い、いや……そうではなくて。なんかその呼ばれ方はむず痒いというか。」
そう進言すると、カリンはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「では社長に決定だな。異論は許さん。」
「う……は、はい。」
すると彼女は列をなしていた後ろのエルフたちに声をかける。
「親愛なる我が子たちよ。此方は今ここに、この甘味を販売する会社の設立を宣言する。社長は人間であるこやつだ。人間という種ではあるが……異論のある者はいるか?」
そのカリンの言葉に反対の意見を述べるものは誰一人としていなかった。むしろ、逆に拍手が巻き起こったぐらいだ。
「では、こやつの会社で甘味の作り方を学びたい者は後程此方のもとへ訪れよ。良いな?」
そうエルフたちに声をかけてから、再び俺の方を向き直った彼女は、早速今日発売のフルーツ大福を指さした。
「今日はこのフルーツ大福とやらを全種類貰おう。あとどら焼きとマンドラアイスクリームも一つずつくれ。」
「はいただいま。」
こうして俺はカリンの手引きでエルフの国に会社を設立し、その社長の座に就くことになってしまったのだった。
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