満を持しての登場


「おい、シン……まだなのか?」


 目の前で何とかして服を着ようと踏ん張るシンに、半ば呆れながら問いかける。


「ちょっと待って欲しいのだ!?なぜッ、こうも…ぬぐぐ!!服が入らぬ!?」


 シンは服が着れなくて悪戦苦闘しているが、それにとうとう追い討ちをかけるように悲劇が訪れた。


「ぬぅ!?今ビリッと嫌な音がしたぞ!?」


「うん、服破けてるよ。」


 無理矢理、入らない服を着ようとしていた代償は大きかった。シンの服は縦に大きく裂けてしまったのだ。


「どうすればいいのだぁ~!!」


 頭を抱えながらシンはうずくまる。まったく、人の前に出るからって、わざわざ派手な服着なくてもいいのに……見栄を張った罰だな。


「仕方ない、取りあえずこれ着てればいい。」


 バッグから一着、服を取り出してシンに渡した。


「むっ!?こ、これはヒイラギの服ではないのか?」


「違う、シンが着るかもしれないって、こっちの服屋で買ってきてたんだよ。一番大きいやつを買ってきたから、着られるだろ?」


「た、確かに着れる……しかし、これで我の雰囲気はでるだろうか?」


「嫌なら裸で出るか?」


「それは恥ずかしい!!」


 渋々、シンは渡された服を着始めた。


「この服は、後でミクモに直してもらおう。」


「うむ。」


 たぶん今ごろミクモは公務に追われていることだろうな。今度あっちに行くときは、たっぷりいなり寿司を持っていかないと文句を言われそうだ。


「ほらほら、お偉いさんが待ってるんだ。早く行くぞ。」


 服を着終えたシンの腕を引っ張り、シンと共にロッカールームから出た。


「すみません、お待たせしました。皆さんに紹介したい人……というのはこの人です。」


「待たせてすまぬな、人間の方々。我はシンッ、獣人族の王だ!!」


 と、シンは高々と名乗るが……エートリヒを除くバイル達はそれどころではないらしい。口をあんぐりと開けて固まってしまっている。


「な、な…まさか、じゅ、獣人族なのか!?」


「はい、彼の名前はシン……です。」


「「「「なんだって!?」」」」


 バイル達の反応を見てエートリヒはクスリと笑っている。


 彼らの反応を見ていると、シンがちょんちょん…と肩をつついた。


「ヒイラギ、彼らは何と言っているのだ?」


 シンの反応も前とまったく同じだ。後で言語理解のスキルを持った魔物を倒して、宝玉をドロップさせないといけないな。後々必要になるだろうから……な。

 エートリヒに紹介したときと、まったく同じ皆の反応に、思わずデジャヴを感じてしまうのだった。

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