ババ抜き


 ババ抜きを始めて少しすると、一人…また一人とあがっていき、最後に残ったのはドーナとランの二人となった。


「うぐぐ……さ、さぁ引きなさいドーナ!!」


 ランは自分の手に残った二枚のカードをドーナに差し出す。二枚のうち片方はスペードのA、そしてもう片方は言わずと知れたジョーカー……つまりババだ。


 ドーナはどちらがジョーカーかを見極めんと、二枚のカードに交互に手を伸ばし、ランの顔色を窺う。


 ランはなんとしてもバレまいと、ポーカーフェイスを貫いているため、表情から読み取ることは困難だろう。


「……決めたよ。」


 ポツリとドーナはそう呟くと、二枚のカードのうち一枚を指で摘まむ。そして、一気にランの手から引き抜いた。


 次の瞬間、ドーナの表情が驚愕に染まる。そう、何を隠そうドーナが引いたのはジョーカーだったのだ。


「ッ!?」


「ふっふっふ~♪どうやら運は、このワタシに味方してるみたいね。さぁカードを出しなさいドーナ!!これで決めてあげるわ!!」


 形勢逆転とばかりに強気になるラン。一方のドーナは顔を一粒の冷や汗が伝っていた。


「お姉さん達凄い!!」


「どきどき…。」


 みんなが固唾を飲んで見守るなか、ドーナはシャッフルしたカードを、ランの前に差し出した。


「さぁ、引きなよ。」


「言われなくても……。」


 ランも先程のドーナと同様に、二枚のカードに交互に手を伸ばしドーナの表情を窺う。そして片方のカードに手を伸ばしたとき、ポーカーフェイスを貫いていたドーナの眉が、ピクリ……と動いてしまった。


「ふふ、見えたわ!!ワタシが求めてるカードは、こっちよ!!」


 その僅かな動きを見逃さなかったランは、一息にドーナの手から一枚のカードを引き抜いた。


「この勝負ワタシのか……ち?」


「甘いよ、まんまと罠にかかったねぇ……ラン?」


 勝ち名乗りをあげようとしたランを見て、ドーナがクツクツと不敵に笑う。


「う、嘘……またババが。」


「アタイの眉が反応したのを見て、そっちを選んだんだろ?残念だったねぇ。」


 どうやらドーナは一芝居うったらしい。それにまんまとランは嵌まってしまったと……表情を気にかけすぎたが故の失敗だ。


「くうぅ、してやられたわ。」


「今度はアタイの番だ。カードをだしなよ。」


 ギリリと悔しさで歯を食い縛りながら、ランは再びカードを差し出す。すると、ドーナはランの表情を一切気にかけずに、直感で一枚のカードを引き抜いた。


 そのカードを手元に引き寄せた瞬間、ドーナの顔がほころんだ。


「よっし!!アタイの勝ちだよ!!」


「ま、負けちゃったわ。」


 ガクリとランはババを持ったまま項垂れる。今回の勝負はドーナの作戦勝ちだったな。


「さ、落ち込んでる暇はないぞ?もう一勝負しよう。」


「え、あ…う、うん!!そうね、今度こそ負けないわよ~!!」


「今度は我もやりたいぞ!!」


「自分も混ぜてほしいっす~!!」


「わ、私も混ぜなさいよ…。」


 そして新たにシン達を入れて、二回目のババ抜きが始まったのだった。

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