国王代理に選ばれたのは…


 会議が終わった後のシンはいつになく上機嫌だった。まさか賛成されるとは思ってもいなかったのだろう。


「うむうむ、今日はとても気分が良い!!」


「ずいぶんご機嫌だな。」


「なんせ人間の国へ行く事が許されたのだぞ?これが喜ばずにいられるものか!!」


 珍しくシンの尻尾がブンブンと激しく左右に揺れている。そして尻尾がある位置に、ちょうどよく頭があるリリンにベチベチと当たっていた。


「ちょっと!!尻尾がさっきから当たってるんだけど!?」


「むっ!?すまぬ……気がつかなかった。」


「嬉しいのはわかったけど、浮かれすぎちゃダメよ?」


「うむ…。」


 リリンに諭され、しゅんと尻尾が垂れていった。シアもそうだが、やっぱり獣人族はみみとか尻尾とかに気持ちが現れやすいよな。


「それで、シンの案が賛成されたのはいいが……。いつここを出る?」


「なるべく早い方がよかろう。ヤツらが動き始める前に先手を打っておかねばならぬ。」


「そうね、こっちの動きを邪魔しないとも限らないし……動くなら早い方がいいわ。」


「なら明日にでもここを出るか?」


 今日は色々と準備をしなければならないだろうから、出発するのは無理だろう。もし最速で向かうとすれば明日だ。


「私はそれでいいわよ。」


「明日か…わかった。代理の者への引き継ぎをなるべく早く終わらせておくとしよう。」


「決まりだな。じゃあ明日出発しよう。」


 こうして明日の朝一で人間の国へと出発が決まった。もちろんこの国に来る時に俺達が通ったあの通路を通って行く。あそこ以外に道はないからな。


「そういえば、国王代理って誰が務めるんだ?あてがあるんだろ?」


「この国で我以外に国王にふさわしいのは一人しかおらぬ。ちょうどいい…我が出向かねば誰も引っ張って来れぬだろうからな。少し待っててくれ、今連れてくる。」


「あ……。」


 ドスドスと足音をたてて、シンは王宮の外へと走っていった。


「ヒイラギ様、リリン様こちらのお部屋でお待ちになられてはいかがでしょうか?」


 レイラが一つの部屋の扉を開けて言った。


「こちらの窓からであれば、シン様が帰ってくるのも見えると思います。」


「うん、じゃあそうしようかな。」


「立って待つのも疲れるしね。」


 窓際に置かれた椅子に腰掛けて、シンを待つこと10分ほど……。


「あ、来たな。」


「だれか引きずってるわね。」


 王宮の入り口に向かってシンが誰かを引きずってきた。遠目で見えるあの特徴的な尻尾は……見覚えがあるな。


 一方その頃とある人物を引きずっていたシンはというと………。


「イヤじゃあぁぁぁ!!妾は国王になんぞなりとうないのじゃあぁぁぁ!!」


「我より強いのはこの国にはミクモ殿しかおらぬ!!心配せずとも代理だ!!たった一時の辛抱なのだ!!」


「離せいっ!!妾は油揚げの研究をせねばならんのじゃあぁぁぁ!!」


 必死になって引きずるシンと、抵抗するミクモ……。二人の格闘は30分以上続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る