お互いの信じていたモノ…


 バリン……とシールドが割れ、奴の体に拳がめり込むと同時、奴の体がサラサラと砂になって崩れ落ちていく。


「これは……。」


 分析する間もなく、脇腹に地面から突き出た槍が突き刺さる。


「うっ……ぐぁっ!!」


「ハァ〜、やるなァ転生者ァ。」


 背後から声が聞こえたかと思えば、そこには砂となって崩れ落ちたはずの奴の姿があった。


「ここまでオレ様の保険を使わせるとは驚いたぜ?」


「くっ……。」


 脇腹を貫いた大地の槍が形を変えて、俺の体を拘束していく。


「さ、最初から相手にしていたのは分身だったのか。」


「そういうこった。オレ様みてぇな幹部は死ぬことは許されねぇ。だからこういう保険は必要なんだよなァ。」


「なるほどな、だから反撃するかもしれない俺に迂闊に近づいて来れたわけだ。」


「分身なら仮にやられたって問題ねぇからなァ。」


 クツクツと奴は笑うと、大地を操り、俺の首元に槍を近づけてくる。


「この秘密を知ったやつは生かしちゃおけねぇ。テメェも、あの女共もなァ。」


 そう話している最中、俺はとあるスキルを奴に向かって使う……。そしてあることを確信すると、一つ頷いた。


「何だァ、諦めがついたかァ?ならさっさと殺してやるよォッ!!」


 そして大地の槍が俺の首を貫こうとしたときだった……。


「ア…ァ?……ア゛ア゛ア゛ァァァッ!!」


 突然奴が胸を押さえて苦しみ始める。その背後には真紅色の大鎌を手にしたリリンが立っていた。


「ようやく……隙を見せたわね。」


「ッ!!ウグァ……て、テメェいつからそこにィ!!」


「いつから?愚問ね、ヒイラギがお前の影に潜り込んだとき……私も潜り込んだのよ。」


 ハッとなった奴は鬼の形相でリリンのことを睨みつける。


「姑息な手を使いやがって……。」


「お互い様でしょ?わざわざ分身まで用意してるなんて、そっちこそ姑息じゃない。」


「ぐ……クククッ、カハハハハ!!そうかもなァ。」


 高らかに笑う奴の胴体が斜めに少しずつずれ落ちていく。 


「だが残念だったなァ!?オレ様にはまだって最後の保険があるんだよォッ!!」


 血の盟約……レスを一度倒した時に発動していたあれか。


 奴が最後の保険と言い放ったその血の盟約だが、いつまで経ってもあの不気味な声が聞こえてこない。


「な、何で……何で発動しねぇ!?」


「何か勘違いしているみたいね?血の盟約は盟約を交わしたものがに発動するものよ?お前……まだ死んでないわよねぇ?」


 口角を吊り上げながらリリンは語りかける。


 奴の体は真っ二つに分断されているが、未だ元気そうだ。真っ二つになっている割には血も出てないみたいだし……どうなっているんだ?


 俺が抱いた疑問を奴も抱いたようで……。


「ど、どうなってやがる!?」


「簡単な話よ。死んで強くなるなら殺さなければ良いだけ。私ならそれができる。」


「クソガァァァ!!殺せッ!!オレ様を殺しやがれッ!!」


「血の盟約を解除したら望み通り殺してあげる。それまでは……。」


 リリンがブンブンと鎌を振ると、あっという間に体がバラバラになり、奴は生首だけの姿になった。


「その姿で生き地獄を味わいなさい。」


 地面に転がった生首を見下ろすリリンの目は、まるで汚いものをみるかのように蔑んでいる瞳だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る