実食!!アンゴロウ鍋


 中に入ったみんなを待っていた光景は、二台のカセットコンロの上に蓋が閉まった状態の鍋が置いてある光景だった。


「あら?もしかして鍋って……。」


「そう、これのことだ。」


 案の定俺とイリスを除き、みんなポカンとした表情を浮かべていた。予想通り過ぎてちょっと面白いな。


「まぁ座ってくれ、今火を点けるからな。」


 カチッとカセットコンロに点火する。これで後は沸騰するのを待てば良い。


「ねぇねぇ、お兄さん!!今日はご飯はないの?」


 シアがくいくいっと服の袖を引っ張りながら聞いてきた。ご飯は炊いてあるが今回は…。


「ご飯はこれを全部食べ終わったあとのお楽しみだ。」


「お楽しみ?」


「あぁ、とっても美味しいから楽しみにしててな?」


「うん!!」


 シアと話していると、シンが今にも鍋の蓋を開けそうになっていた。


「シン…まだだぞ?」


「うぬっ、うむ…。」


 俺の言葉にシンはサッと手を引っ込め、腕を組んだ。


 そして待つこと数分で、鍋から少し湯気が出始めコトコトと音がし始めた。


「そろそろいいかな。」


 鍋つかみで鍋の蓋を掴みガパッと開けた。開けた瞬間に、鍋の中に閉じ込められていた香りが爆発する。


「ふわあぁぁ…いい匂い~。」


「ぬぐ、ヒイラギよ我はもう辛抱たまらんぞ!!」


「そうだな、もういいだろう。」


 これ以上は生殺しになってしまうだろうからな。俺が手を合わせると皆も手を合わせた。


「「「「「いただきます!!」」」」」


 お馴染みの挨拶と共に夕食が始まった。


「ヒイラギさん!!自分の分取ってほしいっす!!」


 自分の取り皿を両手で抱えて、こちらにグレイスが飛んで来た。


「いいぞ、どれ取ってほしい?」


「えっとっすね~、コレとコレと~…。」


 グレイスの取り皿に言われた食材を取り分けていく。


「こんなもんでいいかな?」


「大丈夫っす!!感謝するっす~。」


 グレイスは取り皿を受け取り、いつもの自分の定位置にパタパタと飛んで戻ると、さっそくかぶりついていた。

 他のみんなも自分の食べたい具材を取り、一心不乱に食べている。


「この魚がヒイラギと一緒に買った、あの不細工な魚なのよね?」


「その通りだ。どうだ?美味しいだろ?」


「うん、すっごく美味しい……皮はぷるっぷるしてて、身はふわっとしてて、あんな見た目からは考えられないぐらい美味しいわ!!」


 さんざん不細工、不細工とアンゴロウを罵っていたランも、秘められた美味しさに箸が止まらない様子だ。


「よかった。」


 そしてあっという間に鍋に入っていた具材がなくなり、具材のすべての出汁が溶けだしたスープのみが残った。


 頃合いだ……。


「さて、皆ちょっと物足りないんじゃないか?」


「あら、どうしてわかったの?」


「そうなるように今日は具材の量を調整したからな。」


 鍋の〆まできっちり楽しめるように、ちょっとだけ具材を少なめにしたからな。


 さぁ、〆の雑炊を作ろう。

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