痕跡


 火山を進んでいると、不可思議な何かの痕跡を発見することができた。


「これは……岩が溶けてるのか?」


 目の前に、明らかに何者かの手が加わって変形した岩がそこにあった。

 岩の周囲を見渡す限り、溶岩によって変形したのではなく何か別の物でここまで変形したようだ。


「考えられるのは……酸か。」


 煙が立ち込めていないところを見るに溶けてから時間が経っている……もしくは不揮発性の酸か。

 どちらにせよ、これは間違いなくサラマンダーの仕業だろう。


「ここから先はヤツのテリトリーらしいな。」


 ここからはいつ襲われるかわからない。よく警戒しなければな。


 警戒を強めていると、ランからある質問をされた。


「ねぇヒイラギ、一つ聞きたかったんだけど……。」


「どうしたんだ?」


「酸ってなんなのかしら?」


 流石にランも化学のことはわからないらしい。酸について多少知識がないと、サラマンダー戦は危なさそうだな。


「詳しく言えばかなり難しい話になるんだが……一言で言えば、とんでもなく危険な液体だ。今対策できるとすれば………そうだな、もしサラマンダーが吐いた液体が地面について、煙が上がったらすぐに風上に移動するんだ。吸い込んだら呼吸器系がやられるかもしれない。」


「煙が上がったら風上ね?わかったわ。」


 詳しく話すとわけわからなくなるからな。単純にそれだけわかっていれば、戦闘に支障はでないだろう。


 それから少し進んだ所で、俺はある違和感に気がつく。


「ここの火山には魔物がいないな。」


「そうね、確かに言われてみれば…全然姿が見えないわね。」


 火山という生物が住みにくい環境だから魔物がいないのか……あるいは。


 考察していると不意に後ろで不気味な音がした。


 ズル…………。


「ッ!?」


 即座に音のした方を振り返るが、そこには何もない。ただゴツゴツとした岩肌の地面が広がっているだけだ。


「今……何か這いずるような音がしなかったか?」


「えぇ、ワタシも聞こえたわ。」


 お互いに確認しあっていたその時……フッ、と俺達の周りが急に暗くなった。


「ッ、上だッ!!」


 とっさにランを抱き抱え大きく飛び退いた。


 次の瞬間には先程まで俺達がいた位置に、ズン!!と何かが叩き付けられていた。

 その衝撃で小さな岩が砕け散り、積もっていた火山灰が巻き上がる。


 そして舞い上がった火山灰の中から、ゆっくりと巨大な赤い蛇が姿を現した。


「キシャアァァァァ!!」


 こちらを視界に捉えるなり、キィィィン‥と大気を震わせるような咆哮をあげた。


「お出ましか、蛇竜サラマンダー。」

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