名物シチューのお味は……


 近くに来た店員に声をかける。


「すみません。」


「はーい!!ご注文お決まりですか〜?」


「えーっと野菜のシチューを二人前と、食前にアプルの絞り汁とオレンの絞り汁を。」


「シチューがお二つと、食前にアプルとオレンの絞り汁ですね?かしこまりました!!少々お待ちくださいませ~。」


 店員はこちらの注文を復唱してから、厨房の方へと消えていった。


「にしても……獣人族ってアタイ達の事をあんまり怖がってるようには見えないねぇ。」


「今はまだシンの言葉が心にあるからだ。それに多分気を許しているのはまだ俺たちだけ。」


 俺達人間がこの国で陽の目を見られているのは、間違いなくシンのおかげだ。

 もし彼が説得してくれなかったら、今ここで悠長に食事なんか楽しめないだろうな。

 そう考えるとシンには感謝してもしきれないな。


 そんな事を話していると、頼んだ飲み物が運ばれてきた。


「お待たせしました~。こちらがアプルの絞り汁とオレンの絞り汁です。」


「ありがとう。」


「お料理の方はもう少々お待ちくださいませ~。」


 そう言い残し店員は俺達の元を去った。


 料理はもう少し……か。こう待っている時間というのは長く感じるものだな。


 渇いた喉にアプルの絞り汁を流し込みながらそう思う。味はちょっと酸味のあるリンゴジュースだな。


「でもさ、アタイ達だけでも獣人達が気を許してくれて本当によかったよ。」


「あぁ、まったくだ。これで少しでも人間のイメージが変わってくれればいいんだが。」


 シンは人間との復縁を考えていたからな。俺としてもそれは応援したいと思っている。

 だからできるだけ頑張って、人間のイメージを変えれるようにしないとな。


 そんなことを思っていると、店員が料理を運んできた。


「お待たせしました~、こちらが当店名物の野菜のシチューです!!」


「おっ、来たか。」


 コレが行列ができるほど人気のシチューか。


 色とりどり、沢山の野菜がゴロゴロと入っている具だくさんなシチューだ。

 それに…なんだろう、普通のシチューより少し香りが野性的だ。


 不思議に思っていると、その理由は店員の口から語られた。


「当店のシチューはではなくを使っているのでとっても濃厚ですよ〜。」


 ミノミルク?それにシープミルクと言ったか?シープミルクは恐らくは羊乳……。

 だとすればミノミルクは牛乳か?


「それではごゆっくりお召し上がりくださいませ〜。」


「あぁ、ありがとう。」


 さて、じゃあさっそく食べてみるとするか。


 俺が手を合わせると、それに気がついたドーナも手を合わせた。


「「いただきます!!」」


 早速スプーンで芋と一緒にシチューを掬って口に運んだ。


 シープミルクを使って作られているという、このホワイトソースはとても濃厚な味わいで美味しい。

 鼻から抜けていく香りはまるでチーズのようだ。野菜もよく煮込まれていてとても美味しい。


「うん、美味しい。羊乳を使うだけでここまでクリーミーで濃厚になるんだな。」


「ホント美味しいねぇ、野菜にこの白いソースがよく絡んで……とっても食べやすいよ。」


 入っている野菜のバリエーションも豊富なため、飽きることなく楽しみながら食べられる。


 夢中になって食べ進めている最中、次々と入れ替わる客の中にラン達の姿が見えた。


(おう……ここまでついてくるか。)


 意外にも獣人達に溶け込んでいるため、ドーナは気が付いていない。

 そしてラン達は少し離れたところに座ると、店員に注文をしていた。


「何か気になるものでもあったのかい?」


 俺の様子を不審に思ったドーナが聞いてきた。


「あぁ、いや……あんまりにも美味しくて、少し無心になってただけ。」


 ラン達のことを気にかけながらも、俺は再びシチューを食べ始めた。


 そして俺達が食べ終わるころに、店員がラン達のもとにシチューを運んで行ったのが見えた。

 どうやらラン達もシチューを頼んだらしい。とても美味しいからゆっくり楽しんでくれ。


「うーん、美味しかったねぇ~。野菜がいっぱい入ってたから腹もだいぶ膨らんだよ。」


「あぁ本当に美味しかったな。こんなに美味しいならあんなに行列ができていたのも納得だ。」


 是非ともまた来たいと思う美味しさだった。


「さて、ドーナはこの後何かやりたいこととか、行きたい場所とかあるか?」


「うーんそうだねぇ……完全にアタイの趣味になっちゃうけどいいかい?」


「全然かまわない。」


「それならちょっと行ってみたい場所があるんだよ。」


 ドーナが行ってみたい場所か。いったいどこなんだろうな、楽しみだ。

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