敗北は成長の糧


 状況を理解できていないシンの横に落ちていた短剣を拾うと、俺は彼に向かって言った。


「今回も俺の勝ちだな。」


「むっ…むむむ、まさか我は嵌められたのか?」


「さっきのお返しだ。わざとあの技を空へと流した後、体勢を崩したままにしてたんだ。」


 シンがすぐに距離を詰めてきてくれるようにな。後少し詰めてくるのが遅かったら見破られたかもしれないが……彼ほどの腕前ならその隙を見逃すはずないから、失敗するとも思ってなかった。


「むうぅぅ、我もまだまだ未熟ということか。」


「いや、逆だよ。さっきみたいなやつは熟練した達人ほど良く引っ掛かるんだ。」


 事実何回か師匠にわざと一瞬隙を作る罠を仕掛け成功している。まぁ何回か成功した後は一切通用しなくなったが……。


「そうか、いや勉強になったぞ。これを糧に我はまた強くなれそうだ。」


 敗北にめげずに敗北を糧にする。よく言われるこの言葉だが、実際に実行するのは難しい。だが、真の強者はこれを幾度も繰り返している。だから強くなるのだ。


「鍛練するのもいいが、王としての義務は忘れないようにな?」


「も、もちろんわかっておる。」


 俺の指摘にシンは目をそらし苦笑いしながらそう言った。絶対言うまで鍛練のことしか考えてなかっただろ…。


 シンと話しているとベルグがこちらに向かって走ってきた。


「シン様もういいんですか?」


「うむ、もう満足だ。」


 二人はそれだけ話すと、ベルグは兵士に再び号令をかけた。


「総員整列!!」


 その言葉と共に兵士達は俺達の前にすぐさま整列した。


「さてお前ら!!さっきのシン様達の戦いを見て、まだヒイラギに挑みたいっつう命知らずな野郎はいるか?」


 ベルグが兵士達に問いかけると誰の手も上がらなかった。


「じゃあ質問を変えよう。ヒイラギに戦い方を学びたいヤツはいるか?」


 ベルグのその言葉に兵士達は一斉に手をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る