栄華の裏で


 シンに促されるがままに、バルコニーの一番前に立った。


 俺がそこに立つと大きな歓声がこちらを迎えた。さっきの演説だけで、ここまで国民の心を掴んでしまうのだからシンのカリスマ性には心底驚かされる。


 し、しかし……何を話せば良いんだ?ひとまず無難に自己紹介といくか。


「皆さんはじめまして、ヒイラギ クレハって言います。皆さんと種族は違いますが、今回微力ながら戦いのお手伝いをさせていただきました。」


 その言葉に獣人達から俺の名と共に感謝の言葉が飛び交った。


「皆さんに人間の悪いところだけではなく、良いところも知ってもらえるように頑張ります。暫くこの国にやっかいになる予定でいますので、どこかで俺達を見たら気軽に声をかけてくれれば幸いです。」


「うむ、我は五分の盟約を交わすと言ったがあくまでも我と彼らとの間だけである。皆とは何の関係もないゆえ、気軽に声をかけて親交を深めてもらいたい。」


 シンはそう付け足して獣人達に伝えた。


「ではこれにて閉幕とする!!解散!!」


 その言葉を皮切りに獣人達がぞろぞろと広場から去っていく。


「さて、我らも行こう。」


「あぁ、そうだな。」


 そしてシンと共に部屋の方へ歩いていると……。


「むっ!?レイラ!!」


 飛び込んできたのは、メイドのレイラが俺達の部屋の前で倒れている光景だった。


「レイラ!!どうしたのだ!?しっかりせよ!!」


 レイラを抱き抱え、シンが必死に呼び掛ける。先程までレイラの髪は整えてあったはずだが、彼女の髪はところどころ解れてしまっている。メイド服もボロボロだ。


「まさか……。」


 とてつもなくいやな予感が頭をよぎり、グレイスとシアがいるはずの部屋のドアを開けて中を確認すると……。


「嘘…だろ。」


 部屋の中には、全身ボロボロになって傷だらけになったグレイスいなかったのだ。


「グレイス!!大丈夫かっ!?おいッ!!」


「うっ、ヒイ…ラギさん、ごめんっす。シアちゃんが………。」


 言葉の途中でグレイスは気絶した。あまりにも出血がひどかったのだ……。


「踏ん張れよグレイス。」


 マジックバッグに手を突っ込み、中から神華樹の花を取り出した。

 その花をぎゅっと握りしめ、出てきたエキスをグレイスに飲ませた。するとグレイスの傷がみるみる内にふさがっていき、呼吸も安定した。


 ひとまずはこれで大丈夫だろう。ベッドの上にグレイスを寝かせて、周りを良く見渡すとテーブルの上に一枚の紙切れがあるのが目についた。


 手に取り内容を見てみると……。


『忌み子の娘は預かった。』


 その言葉を見た瞬間にブツン…という音と共に視界が真っ赤に染まっていった。

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