獣人族の未来


 シンは少し間をおいてから話し始めた。


「実を言うと、我は今のこの国に危機を感じておるのだ。」


「死の軍勢のせいか?」


「それもあるのだが……。今この国は年々各地の農作物や海産物の収穫量が減ってきていてな、この先長いことを考えるとかなり不味いのだ。」


「エルフと貿易はしてないのか?」


「いや、この国は壁ができてからというものの、外の国との交流を完全に絶ってきた故に貿易等はしておらんのだ。」


 なるほどな…人間に虐げられていた関係の二種族であれば少しは交流もあるのではないかと思っていたが、違ったようだ。

 しかし、彼が何を考えているのかはだいたいわかった。


「今回のことを期に、また人間と交流を持とうって考えてるのか?」


「うむ、その通りだ。」


 やっぱりか……だがそれは…。するとシンは俺が何を思っているのか察していたようで。


「ヒイラギが考えていることはわかる。確かに人間は過去に我らを虐げた、だがそれは過去の話なのだ。」


 確かに過去の話だが、既に獣人族の多くの人たちには人間といえば悪者というイメージがついている。

 それは俺もここに来て経験している。シンであればそんな事は当然知っているはずだ。


「だが、いくら過去の話とはいえ既に獣人族の人達には人間は悪者って認識が広まっているだろう?」


「うむ、だがその認識というものはあくまでも古の言い伝えを信じているだけのこと。故に変わりやすくもあるとは思わんか?」


 確かにその通りではある。シンの言っていることは間違いではない。


 日本にも百聞は一見にしかずということわざがあるように、本当の事実を知らずにただ言い伝えだけを聞いて根付いた認識は、本当の事実を実際に見れば脆く崩れ去ってしまう。

 それだけ見るのとただ聞くのでは違いがあるのだ。


「確かにそうだが、だがどうやって?」


 するとシンはふっと笑い、その答えを教えてくれた。


「そのための民の前での戦果報告よ。民の前でお主達を紹介し、そして戦場で何をしたのか、それをありのまま伝えればよいのだ。」


「だが、兵士達は俺達が戦っていたのを見ていたからあの反応だっただろ?なにも見ていない人達が簡単に信じるか?」


 兵士達は俺達が戦っていたのを見ていたから、認識を改めるのに時間はかからなかったが…なにも見ていない人達を説得するのは骨が折れるのではないだろうか?


「大丈夫だ。我に任せるのだ。」


 そう言われるとなにも言い返せないな。


 シンの任せろという言葉には凄い説得力がある。それに加え、そう言い放ったシンの目には自信が満ちていた。


「わかったわかった。信じるよ。」


 シンのその言葉と態度に負け、俺は彼を信じることにした。

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