王宮へ


 シンと共に馬車に乗り込むと、ガラガラと音を立てて進み始めた。馬車の中で彼に声をかける。


「あの、シンさん?」


「ヒイラギよ、いつまでその丁寧な物言いでいるつもりなのだ?」


 敬語で話しかけると、シンは少し不愉快そうに言った。一応相手は一国を預かる王だから、それぐらいの礼儀は当たり前だと思うのだが……。


「我とヒイラギはもう立派な友ではないか?友にわざわざそんな丁寧な言葉を使うのか?」


「い、いや…ですが。」


「我が良いと言っておるのだ。」


 一歩も引いてくれないシン、なにがなんでも俺に敬語をやめさせたいようだ。


「わかり……わかった。これでいいか?」


「うむ、それでいい。」


 シンは大きくうなずきとても満足したようだ。なんというか…意外と単純だな。


「それで、今はどこへ向かっているんだ?」


「当然王宮に決まっておろう。国の民に此度の戦いの報告をせねばなるまい。もちろんだが、ヒイラギ達にもその場には来てもらうぞ?民にもしっかりとヒイラギ達のことを知ってもらわねばな。」


「やっぱりかぁ。」


 はぁ……とため息をつくとシンは笑いながら俺の肩にポンポンと手を置き言った。


「ヒイラギは恥ずかしがり屋だな。安心せい、我に任せよ。」


 さっきも何とかなってしまったからな、何も言い返すことができないが、一応これだけは言っておこう。


「ほどほどに頼むぞ?」


「うむ!!」


 ガラガラと馬車で進んでいると、眼前に大きな建物が見えてきた。


「あれが王宮か?」


「その通りだ、無駄に大きかろう?あんなに大きいせいで、メイド達の掃除が大変そうで仕方がないのだ。」


 うーむと唸りながらシンはそう言った。


 本当にシンは他人への気遣いが凄いな。普通、王の立場にある者ならばメイドの苦労を考えたりするだろうか?

 まぁでも、こういう他人を気遣える彼だからこそ……他の獣人族からの信頼も厚いのだろう。


「にしても二人はしゃべらんな?緊張しておるのか?」


 今の今までしゃべらなかった二人にシンは声をかけた。


「緊張するに決まってるじゃない!!この後また大勢の視線に晒されるなんて……うぅ頭が痛いわ。」


 珍しいなランがこんなに恥ずかしがっているなんて、一方のドーナはというと……。


「い、未だに自分がいる場所が信じられないだけ…です。」


 緊張してガチガチになっていた。わかる……わかるぞ、なんせ目の前にいるのは一国の王だからな。緊張して当然。


「むう、ドーナよ。」


「ひゃ、ひゃい!?」


「我とお主達は友なのだ。そんなに緊張するでないぞ?丁寧な言葉も使わなくてもよい。」


 そうシンはドーナに言ったが、彼女にはもう聞こえていないようだ。


「ま、まぁゆっくり慣れていけばいいじゃないか?」


「そうだな、我としたことが少し焦りすぎたか。」


 そんな会話をしているうちに馬車が止まった。どうやら着いたようだ。

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