ミルタ商会とケーキ
ミルタside
私はヒイラギさんたちを見送り、店舗の中へと戻った。
「お疲れ様です会長。」
いつも出迎えをしてくれる彼女に、私は一言指示を出す。
「至急従業員を集めてください。」
「はい、かしこまりました。」
そう指示をだして私は先程ヒイラギさん達と会談をしていた部屋へと戻った。
「見たことのない装飾が施されたお菓子……とても精巧にできていますね。」
ヒイラギさんから頂いたケーキというお菓子を見つめた。なんとも美しい造形で、白地に赤いベリリの実がとても合っている。
「会長、従業員の招集完了しました。」
「そうですか、それではさっそくこちらを見てもらいましょう。」
従業員達にケーキを見てもらう。この国のいろいろな場所から働きに来ている彼女たちなら、見たことがある可能性がある。
と思ったのですが、反応を見る限り誰も見たことのないもののようです。
「これは、なんとも美しいですね。」
「上に乗ってるのはベリリの実ね。」
「これは先程私のお客様に頂いた
「確かにこの造形美は富裕層の興味をかなり引くこともできるかと。ですが問題は……。」
「えぇ味ですな。確かヒイラギさんは紅茶と合わせて…とおっしゃっていましたな。」
「紅茶ですね、先程の物と同じ物でよろしいですか?」
「えぇ、人数分お願いします。」
従業員の一人が紅茶を淹れに向かった。その間私はナイフを取り出し、人数分にこのケーキを切り分けることにした。
ナイフをケーキに入れるとまるで沈むようにスッと飲み込まれていった。
(なんという柔らかさ……。)
人数分に切り分け、断面を見てみると……。
「ふむ、白い生地の下には黄色いパンのようなものが入っていると。その間にはまたベリリの実がぎっしりと入っている。」
切り分けても尚美しい……白、黄色、赤の三色でとても明るく見える。
「会長、紅茶をお持ちしました。」
「ありがとうございます、それでは皆さんも食べてみて下さい。」
一人一人にケーキを配っていき、自分の分のケーキへと視線を落とした。
「それでは頂きましょう。」
フォークでケーキを少し切り分け、口へと運び入れる。
その次の刹那、体中をとてつもない衝撃が駆け巡った。
「……これは比べ物になりませんな。」
白い生地はしっとり甘く、中の黄色い部分は普通のパンよりも遥かにふんわりとしていて柔らかい。さらにベリリの実の甘酸っぱさが、口の中をさっぱりとさせてくれる。
気付けば、あっという間にもう皿のケーキはなくなってしまっていた。
「会長、これは……」
「えぇ、食べてみて私も確信しました。これは売れますよ!!さぁ試作です、あるものはすべて使って構いません。何としてもこれと同じものを作り上げるのです。」
この日からミルタ商会でケーキの試作が始まった。そして後々、ミルタ商会のケーキがとても有名になるのだが……それはまた別のお話。
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