シアミーツドーナ


 さてじゃあいよいよ本題に入るとしよう。シアのことをドーナに話すのだ。


「実はもうひとつ話がある。」


「ん?まだ何かあるのかい?」


「どちらかと言えばこっちが本題だ。俺の事情同様、絶対に他言無用でお願いしたい。」


「あ、あぁわかったよ。」


 少し驚いた様子を見せながらもドーナは頷く。それを確認した俺はシアに声をかけた。


「シア、もう出て来ていいぞ。」


 俺の声に応じてバッグの中からシアがぴょんと飛び出し、ドーナの前に姿を現した。


「なっ!?そ、その耳っもしかしなくても獣人族じゃないかい!?な、なんでこんなところに……。」


 いざシアを目の前にした彼女は、あまりに驚きすぎて固まってしまっている。そんなドーナの姿を目にしたシアは、首をかしげてこちらを見てきた。


「ヒイラギお兄さん、このお姉さんはいいヒト?」


「あぁ、大丈夫だ。信用できるいい人だ。」


「そうなんだ!!は、初めましてシアです!!よ、よろしくお願いしましゅっ!!はぅ……噛んじゃった。」


 俺以外の人間を見て緊張したのか、シアは自己紹介の最後で噛んでしまった。


 シアの渾身の自己紹介だったはずだが、ドーナはどうしてか、ぽかんと口を開け呆気にとられたまま、問いかけてくる。


「あ、あのさヒイラギ、この子必死に何か伝えようとしてるみたいなんだが……なんて言ってるのか、さっぱりわからないんだよ。」


 そうか、ドーナは俺のように言語理解のスキルを持っていないから、シアの言葉がわからないんだ。そのことをすっかり忘れていたな。

 まぁ、シアの言葉を俺が通訳してあげればいいだけの話か。


「『初めまして、私はシアです。よろしくお願いします。』だってさ。」


「な、なるほどねぇ。……って何でヒイラギは獣人族の言葉がわかるんだい?」


「そういうスキルを持っているからな。まぁ俺のことはさておき、今日から俺がこの子の面倒を見ることになったから、それを知ってもらいたかったんだ。」


「そういうことかい、まっアタイが力になれることがあったら言っておくれよ。」


 ドーナもどうやら協力してくれるようだ。これで協力者が一人増えた。ドーナはこの街でも顔が広いだろうし、彼女の協力を得られたのは大きい。


「すまないがよろしく頼む。」


「任せなよ。」


「ありがとう。後でしっかりお礼はさせてもらう。」


「別にいいのに、まっ楽しみにしとくよ。」


 いろいろと彼女には借りがあるからな、それを返さないというわけにはいくまい。


「それじゃあ、そろそろ行くとするよ。時間を取らせて悪かった。あ、あと紅茶美味しかったよごちそうさま。」


「あっ!!あぁ、何かあったらまた来なよ?」


「お姉さんまたねっ!!」


「シアがお姉さんまたね。だってさ。」


 ドーナに手を振って、シアは再びバッグの中へと入っていった。シアが入ったバッグを肩から提げ、俺は彼女に別れを告げて部屋を後にした。


 さぁ、次に向かうは服屋だ。

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