シアという少女


 たくさん泣いて疲れてしまったのか、シアは寝てしまっていた。

 ときどき特徴的な黒い猫耳がピョコピョコと動いている。こういうのを見ていると思わず触りたくなる衝動に駆られてしまう。


「さて、咄嗟にこの子を保護したのはいいが、これからどうしたものかな。」


 この子は獣人族だ。このまま帰って街の人の目についてしまえば、間違いなく大変なことになってしまう。


 街に入る方法を考えないといけないな。


「このマジックバッグ、人とかも入れたりしないかな?」


 容量は無制限だと以前鑑定したときにわかってはいたのだが、人とかが入っても大丈夫なのかどうかは検証していなかった。


「安全を確保できていない状態でこの子を入れるわけにもいかないし……仕方がない自分で入って安全を確かめてみるか。」


 提げていたバッグを地面に置いて足を近づけると、一瞬体が引っ張られる感覚が俺を襲い次の瞬間にはバッグの中に吸い込まれていた。


「お~、ここがバッグの中か。」


 バッグの中には、オーリオの実や三日月草等様々なものがふわふわと宙を漂っていた。


「普通に呼吸もできるし、入っていても問題なさそうだな。」


 これならばあの子が入って隠れても問題はなさそうだ。さて、確認もできたしここから出たいのだが……。


「あそこが出口かな?」


 光の射すほうへと向かうと、俺はいつの間にか外の世界へと戻ってきていた。


「よしっ、あとはこの子が目を覚ますのを待ってから街に戻るとしよう。」


 魔物や人が来ないか、周囲を警戒すること数分後……。


「ん、にゅう‥あっお兄さん!!」


 シアが目を覚まし、俺のことを見つけてぱぁっと表情が一気に明るくなった。


「おはようスッキリしたか?」


「うん!!」


 ひと眠りして元気になったらしい。すっかり元気になったシアの頭を撫でていると、ある質問を投げかけられた。


「お兄さんのお名前はなんていうの?」

 

「ヒイラギ クレハだ。ヒイラギでかまわない。」


「ヒイラギお兄さん!!シアはシアだよっ!!」


「あぁよろしくなシア。」


 嬉しそうにシアは俺の名前を呼んだ後に、自分の自己紹介をしてくれた。幼そうな外見とは裏腹にしっかり者だな。


「さてシア、これから人間がいっぱいいる街に行かないといけないわけだが。その前に一つ約束してほしいことがあるんだがいいかな?」


「うん!!シア何すればいいの?」


 コクリと大きく頷いた後、シアは首をかしげる。


「絶対に俺以外の人間の後を着いていかないでくれ。これだけだ。簡単だろ?」


「うん!!シア、ヒイラギお兄さんにしか着いていかないっ。約束できるよ!!」


 シアは大きくうなずいた後、俺の腰にぎゅっと抱き着き、顔をすりすりとこすりつけてきた。


 素直で物分かりがよくて、非常に助かる。


「それで、街に入る方法だが。シアにはこのマジックバッグに入って貰う。」


「うんっ、わかったぁ!!」


 怖がられるかと思ったが、シアはそんな様子を見せることなくうなずいてくれた。


 素直すぎるシアの頭を撫でてあげる。


「ふわぁぁっ……ヒイラギお兄さんのおてて気持ちいいぃ~。」


 とろ~んと蕩けながら、シアは身をゆだねてくれる。するとその途中で、シアが何かを思い出したように走り出し、こちらへ何かを持ってきてくれた。


「はいっ!!これっ落ちてたの!!」


 シアが持ってきたのは赤い水晶玉だった。


「あの魔物の宝玉か?」


 シアが拾ってきてくれなかったら、この場に放置していくことになってしまっていたことだろう。危ない危ない。


「ありがとうシア。それじゃそろそろ行こうか?」


「うん!!」


「よしそれじゃあここに入ってくれ。」


 シアの前でマジックバッグを大きく開く。


「わかったぁ!!」


 シアは迷わず飛び込むように、ぴょんっとその中に入っていった。


 そしてどうやっているのか、ひょっこり頭だけをバッグから出し、にっこりと笑いながらこちらを向いた。


「えへへ。」


「今はいいけど、街についたらいいって言われるまで顔出しちゃダメだぞ?」


「うん!!わかったぁ!!」


 ちょうど腰の位置で顔を出しているシアの頭を撫でながら、俺は街の方角を向く。


「さて、帰るとするかな。」


 足早に来た道を引き返し、シアを連れて街への帰路についたのだった。

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