不穏な影
ガサリと音がした茂みのほうに警戒しながら目を向ける。そして足元にあった石ころを手に取った。
「また、ゴブリンか?」
石を握った手を振りかぶり、茂みへと向かって投げようとしたその時だった。
「ふぇぇッ!?ご、ごめんなさいっ!!」
茂みの中からひどくおびえた様子の声が聞こえた。どうやらゴブリンではなく、人が隠れていたらしい。俺と同じくオーリオの実を取りに来たのだろうか?
だがまず先に誤解を解いたほうがよさそうだ。俺は手に持っていた石を投げ捨てて言った。
「怖がらせてすまない、ゴブリンかと思って身構えてしまったんだ。」
茂みの中にいる人物に声をかけると、いまだ声を震わせながら声の主はこちらに問いかけてくる。
「に、人間さん……な、なんでシア達の言葉話せるの?」
「ん?何かおかしかったか?」
「……人間さんの話してる言葉はシア達
茂みから聞こえてきた声に思わず耳を疑った。声の主が言うには今こちらに話している言葉は、獣人族の言葉らしい。
こちらに来てからというもののスキルのおかげで、特に言語を気にしなくてよかった。
この言語理解というスキルにはイリス曰く、自身の話している言葉が自動的に相手の普段使っている言語に変換されるという効果もあるらしい。この声の主が俺の言葉が獣人族の言葉で聞こえているということ、それはつまり……。
頭の中でカチッとパズルのピースがはまると同時に、その茂みの後ろから強烈な殺気を感じた。
「ッ!!危ないっ!!」
とっさに縮地を使い、茂みの中に隠れていた少女を抱きかかえ、その場を飛びのいた。その次の瞬間、少女の隠れていた茂みが大きな丸太によって叩き潰されたのだ。
「ふぇぇッ!?た、助けてっ!!」
「大丈夫だから、ちょっと下がっててくれ。」
「う、うんっ。」
抱きかかえていた少女を下ろし、安全なところに離れていてもらう。そして叩き潰された茂みのほうへと目を向けた。
するとそこから真っ赤な肌の筋骨隆々な巨人が姿を現した。
「鬼……か?」
目の前に立つ巨大な鬼のような魔物は、凶暴な眼光をこちらに向けている。そいつは手に持っていた太い丸太を、俺へとむけて勢いよく振り下ろしてきた。
「問答無用か。」
目前に迫る丸太を体をひねって躱し、俺は大きく一歩踏み出して間合いを詰めた。
「フンッ!!」
間合いに入った俺は地面を軽く蹴り、鬼の魔物の顎を掌底で打ち抜く。さらに後ろに転びかけているそいつの顔に手をのせ、思いっきり地面に叩きつけた。
同時に辺りにグシャッ!!という生々しい音が響き、手の下にいる魔物の頭がめり込んだ地面には、赤い血溜まりができた。
「うまいこと決まったな。さすがに死んだだろ?」
倒れている魔物はピクリとも動かない。さすがに頭を砕かれては、こんなに屈強そうな魔物でも生きてはいられないはずだ。
死んでいることを確認した俺は、オーリオの木の後ろに隠れていた少女に声をかけた。
「もう大丈夫だ。安心してくれ。」
「ふわぁぁっ!!お兄さん強かったぁ!!」
声をかけるとその少女は木の裏から飛び出し、俺に向かって飛びついてきた。
安心させようと頭を撫でようとしたとき、その少女の頭にはぴょこんと猫のような耳が生えていることに気が付いた。
間違いない…この子は獣人族だ。しかしなんでまた対立関係にあるはずの獣人族がこんなところにいるんだ?
「君は獣人族だろ?何でここにいるんだ?」
「シア……シアは村から追い出されちゃったの。」
シアという少女はうつむきながらそう答えた。
村を追い出されたって、こんな年端もいかない少女を獣人族は追い出したりするのか!?
「ど、どうして村を追い出されちゃったんだ?」
「シ、シアは毛が黒いから、呪われてるって。」
俺が問いかけるとシアは涙ぐみながら答えてくれた。
毛が黒いから呪われてるって……あれか?人種差別みたいな感じで追い出されたのか?だとしてもこんな小さい子供に酷いことをするものだな。
兎にも角にも、この子をここに放っておいたらかなり危ない。ほかの人に見つかっても危険だろうし、何よりこの森にはゴブリンとか魔物がいる。
安全面を考えると、一度俺が保護をしたほうがよさそうだ。まぁそれも、このシアという少女が俺を信じてくれればの話だが……。
俺は少女の肩に手を置いて言う。
「シア、ここは危ない。君が望むなら、俺が君のことを守ってやれるが、俺と一緒に来るか?」
「で、でもシアと一緒にいて嫌じゃないの?」
「嫌じゃないさ。呪いのことなら心配しなくていい。もし本当に君が呪われてるってんなら、俺も呪われてるってことだからな。」
ちょんちょんと俺は自分の髪を指さす。
「あ、お兄さんも黒い……。」
「だろっ?」
「お兄さんは呪われてないの?」
「あぁ俺も呪われてないし、もちろん君も呪われてなんかいないさ。だから安心してくれ。」
そう安心させるべく、俺はシアの頭を撫でた。
「し、シアお兄さんと一緒にいてもいいのっ?」
「あぁ、もちろんだ。だから一緒に行こうシア。」
「~~ッ、うんっ!!」
コクリと頷き、ぶわっと泣き出してしまったシアをぎゅっと抱きしめ頭を撫でる。シアが泣き止むまで俺は彼女のことを優しく抱きしめ続けた。
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