第13話 「ホントの私」

「ちょっと、何ニヤニヤしてんのよ」


 柚がいつもの調子で俺を睨んでくる。


「なんでもないですよ? 儚き聖女様?」

「なっ! あんたまでそう言う!?」

「いや、だってよぉ、儚いってなんだよ。どこからそれ来たんだよ」

「そんなの私だって知りたいわよ」

「まぁ、俺は知ってるけどな」

「知ってるの!?」


 うむ、実は知ってるのだ。こちとら校内のいろんなところで作業してるからなぁ。

 耳に入ってくるんだよ。


「なんかな、お前が赴任した年のクリスマス近くに、何回もスマホ見ながらため息ついてた姿からきてるみたいだぞ?」

「そんな事……あぁ、うん。そんなこともあったかも……」

「クリスマスになんかあったのか?」

「何もないからこそのため息に決まってるじゃないの……」


 あぁ……それはわかる……。


「けど今年は彼氏と一緒にだろ? 良かったじゃん」

「……そうね。はい、もうその話はおしまい」

「へーいへい。つーか、そのキャラはなんなんだ?」

「キャラ?」

「おしとやかっていうか、なんかビミョーに他人と距離を取ってる感じがする。慕われてはいるけど踏み込ませない。みたいな?」

「っ! それは……その……」

「俺、そんな柚見たこと無かったからなぁ〜」

「……そうかもね」


 なんか歯切れが悪いな。最近こういうの多くないか? 彼氏とうまくいってないとか?


「なぁ、なんか悩みでもあるのか?」

「関係ないでしょ」

「そうか。まぁなんかあったら言えよ? 相談くらいには乗るからな」

「だから関係ないって言って「天音先生オハヨー」ひうっ!」


 何故か柚が声を荒げた時に一人の生徒が声をかけてきたが、「あ、うん。おはよう」と、すぐさまさっき見た微笑に変わって挨拶を返していた。さすがだ。


「じゃあ私は先に行くから。あんたもちゃんと仕事しなさいよ」

「わかってるよ」

「後……あんたの前の私がホントの私よ」


 それだけ言うとスタスタと先に歩いて行ってしまった。

 なんのこっちゃ? ホントも何も、偽物でもいるのか? 謎だ……。


 そして俺も職場である学園に到着。

 職員室に寄ってタイムカードを押し、倉庫に向かう。俺の仕事道具はすべてここにある。

 ついでに言えば、テレビもエアコンもソファーある。無いのはトイレだけで、ぶっちゃけここで生活出来るくらいだ。前任のじいさんがここまで作り上げたらしい。感謝しかない。


 机の上に自分の鞄をおろし、今日の予定を確認。とりあえずは昨日まとめたゴミの処理からか。


 さて、結が持たせてくれたおにぎりせんべい食べたら、今日もお仕事頑張りますかね。


 コンコン


 ん? 誰だ?





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