医療バラエティ

 ベン・ヘクト“Miracle of the Fifteen Murders”の前半は、医師たちが自らのしでかした診断ミスによる過失致死を語ります。後半は新入りの会員の《告白》した患者の正しい病気や症状はなんだったのか、を会員たちが推理する展開になります。

 ここが前述の「シカゴの夜」(前回参照)と異なるところ。「シカゴの夜」は警官が知っている奇妙な事件、奇譚がいくつも語られます。そこに「推理」や「謎解き」の要素はありません。

 犯罪も犯罪者も存在しますが、論理的な謎の解決はないのです。むしろ、ロジックで割り切れないどこかズレた犯罪や、歪んだ人間の心理が描かれます。

 一方、“Miracle of the Fifteen Murders”。

 我々、読者の多くは高度な医療的知識がないため、主体的に参加できる謎解きミステリではありません。仮説が立てられ、反証があり、じりじりと真相に接近していくスリルは、大半の読者の推理をはねつけているからこそ成立するのかもしれません。

 ベースとなる知識がないからこそ、口を挟む余地がなく、ただただ書き手のなすがままに振り回されるのです。

 病名を探るということでは、以前、勢作側が提示したデータをもとに医師たちが診断をするテレビ番組があったと記憶しています。このテイストに近いです。

 番組のポイントはミステリ的な面白さと、病名(正解)を示すことによって「同じような症状があったら注意して医療機関を受信してみてくださいね」という啓蒙にあったと思います。

 ベン・ヘクトも真の病名と原因を当てさせるというミステリ的な趣向とは別に、もう一つ、たくらみを用意しています。

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