第123話 調査隊選抜トーナメント

家に残された、守と優香はそわそわと部屋を歩く。2人とも出て行った巫女とオースティンが気になって仕方が無い様子だった。


それを感じ取った咲が不満げにコーヒーを飲む。


「鬱陶しいんだよテメーら!!!じっと座ってやがれ!!!」


「そんな事言ったって咲さん・・・巫女姉がデートに行ったんですよ!? 気になるに決まってるじゃないですか!」


「おい有沈! こいつらを椅子に縛れ!」


「あ・た・し・も・・・気になるわぁ~!」


咲は思わずコーヒーを吹き出す。


「有沈てめぇ~・・・!」


「だって、アメリカから恋人を追ってはるばる日本まで迎えに来た王子様よん? 私だったら奪われちゃうわ~」


有沈のキラキラした目をよそに、咲は口からしたたるコーヒーも拭かず、腕を組む。


「・・・確かに」


「ああん!もう!咲ちゃんもやっぱり、お・と・め。よね~!!!」


有沈はすぐさまハンカチを取り出し、咲の口を拭く。


「違げぇよボケ! おい、優香ちゃん、守。てめーら今すぐあの2人を追え」


「えっ・・・でもここの防衛は?」


「人型の2匹ならこの俺様がスイッチを持ってるから心配ねぇ。ほかの来客がきてもこの面子ならそう簡単には抜かれねぇよ。ぼけっとすんなさっさと行け!」


喜ぶ2人に咲は真剣な表情を向ける。


「おい、てめーら万が一だ。巫女がオースティンと国外に逃げようものなら・・・その時は分かってるな」


「巫女姉に限ってそんな事はありません」


「そんな事百も承知だ優香ちゃん。万が一・・・だ。行け!」


守を優香は慌てて2人を追った。




終焉の日、破壊された町はほぼその前の姿に修復され、元の町並みを取り戻していた。

そのきらびやかな町の一角、巫女とオースティンはアイスクリームを購入し、椅子に座って楽しそうに食べている。


その様子をビルの奥から隠れて監視する優香と守。その2人微笑ましく、何も知らず傍から見れば恋人同士のデートにしか見えないであろう。


「何か・・・巫女姉楽しそうだな」


「そうね。本当に楽しそう。・・・ねぇ守」


「ん?」


「このまま巫女姉が逃げても・・・私、止められそうにない・・・かな」


守は再び2人の笑顔を見る。


「・・・そうだな。俺もダメそうだ」


その後、心配をよそに特に問題も起きず巫女とオースティンは別れ、巫女は何事も無かったかのように家に帰って来た。


「ただいま」


『おかえり』


先回りして帰っていた優香と守が出迎える。


「デートどうだった? 巫女姉」


優香の質問に巫女は微笑む。


「見てた通りよ」


「やっぱバレてたのね・・・」


「巫女姉・・・巫女姉はオースティンと一緒に行きたくなかったのか・・・?」


巫女はすれ違い様に守の頭をそっと撫でた。


「私だけ飛び立つ訳にはいかないわ」


「巫女姉・・・。俺の事を気にしてるんなら、怒るぞ」


巫女は振り返って満面の笑みを浮かべ、両手を広げた。


「私はこの家が、ここの皆が大好きなの。それだけよ」


そこへ家で待機していた咲が腕を組んで待ち構える。


「ただいま、咲」


「おう」


巫女は咲にふわりと抱き着く。


「や・・・やめろバカ! みんなが見てるだろうが!」


「ありがと、咲」


「う・・・うるせぇ・・・」


奥からエプロン姿の有沈と瑞穂が現れた。


「さ、皆ご飯出来てるわよ。皆席について食べましょう」


『はーい!』





雪の積る頃、寒さのしみる元帥室。白い息を吐きながら、アリーチェと咲が言い争っている。


「おいアリーチェテメー!!! 本気で言ってんのか!?」


「ええ、本気よ」


「ふざけんな! ジジィなら絶対しねぇぞそんな事!!!」


「私は神代元帥ではありません。ゲートの向こうに大量の人員は送り込めません。ならば1人の質を上げるのは当然の作戦と思います」


はすでに終わってるはず。少し邪魔が入ったがな・・・だがそれ以上はこの俺様が認めねぇ!!!」


「分かっています。ですから自分の手で止めて下さい。分かりますね」


アリーチェは一枚の紙を差し出す。


「こいつぁ・・・てめぇ・・・上等だ!!! 全員ぶっ殺して救ってやる!!!」


「その意気です」


アリーチェは微笑んだ。


「しかし、この作戦には法律を変えなきゃならねぇはずだ。あの黒内の野郎が素直に賛成するとは思えねぇ。どうするつもりだ」


「そうですね。してみます」


「ちょっとやそっとじゃ首を縦には振らねぇぞあいつは」


「私に考えがあります」



煌く東京の街を見下ろす高層ビルの一室。そのレストランが貸し切られ、黒内 法務大臣と元帥 アリーチェが食事を行っていた。


「まさか君からお誘いがあるとはね。てっきり嫌われているものと思っていたよ」


「嫌っているなんてとんでもありません」


「で、どうした? 何か理由があるんだろう?」


「はい」


アリーチェは今度計画している選抜トーナメントの事を話す。


「なるほど。で、それを通す為にこの僕に協力して欲しいという事だね」


「はい。お力添えをいただければ助かります」


「ふむ。しかし・・・ただという訳にはいかないねぇ・・・」


黒内はアリーチェの体を舐めるのうに見る。


「あら、私でよろしいのですか? もしもの為にこのビルのホテルを押さえてありますが」


「いやぁ話が早くて助かる。流石は優秀な元帥。前の元帥と大違いだ」


黒内はガハハと笑う。


その後食事を済ました2人は同じビルの部屋へと向かった。

部屋に入るなり抱き着こうとして来た黒内を手で制すアリーチェ。


「体を洗って参ります。そう急がないでも時間はたっぷりとございます」


「ようやく君を私の女に出来るな。どうせあのいけ好かない神代 誠にでも脅されて一緒に居たのだろう? あいつは融通が利かなく頭が固い馬鹿だった。口をひらけば子供だの未来だの。ただのロリコン野郎だ。死んでくれて本当にせいせいーーーー」


突然、黒内の腕が宙を舞い、大量の鮮血が部屋に飛び散る。

一体何が起こったのか判らないといった様子の黒内だったが、自分の腕が地面に落ちると同時に駆け巡る激痛に何が起こったのを理解した。


「お・・・俺の腕があぁああああ!!!」


「あら、私ったら」


黒内は自分の腕を拾いながら、アリーチェを睨みつける。


「貴様・・・こんな事してただで済むと思うな!!! 明日にはスキャンダルで懲戒免職だ!!!」


部屋の奥から人影が現れる。


「それはてめぇが生きてたらの話だろ。あぁ? 黒内」


「貴様は・・・神代 咲・・・! 計ったな!!!」


「うるせぇ。テメェごときが気安くこの俺様の名前呼ぶんじゃねぇ。おいアリーチェ。やっぱこいつここで殺させろ」


「それもいいかもですね。ま、交渉次第では助けて差し上げてもいいのですが」


黒内は後ずさる。


「先ほどの話なのですが・・・許可、頂けますか? 貴方はただ黙って首を立てに振ってくれるだけでいいのですよ?」


黒内は痛みに耐えながら、黙り込む。


「そうですか。ではもう一つ。黒内 法務大臣。貴方が【箱舟】のメンバーの人選を主導した証拠を私は握っています。これを公表すれば貴方の支援者、協力者にまで迷惑がかかるのでは?」


黒内は渋い顔を浮かべた。


「・・・分かった。私の負けだ」


アリーチェは微笑む。


「咲。治療して差し上げて」


「あ? 自分でやれよテメー。俺様が何でそいつに触んなきゃなんねーんだ。俺はテメーが黒内を脅すっつーから見学に来ただけだ。そうだな・・・右手と左手逆につけていいっつーならやるぜ」


「うーん・・・いいんじゃない? 死ななければ」


「お前ら!!!ふざけてないでさっさと治療しろ!!!」


この後、咲が腕を治療したお陰で腕は元に戻ったが、顔が気に入らないという理由で顔面を殴り続けた結果。代わりに黒内の顔面が崩壊した。




この日は冬期休暇に入る終業式の日だったが、突然全校生徒は武道館に集められた。

その全生徒の前、壇上には元帥のアリーチェが立つ。


「皆さんに報告があります。終焉の日も無事に終わりを向かえ、平穏がこの世界に訪れました。ですが、その根本。敵の本隊はまだ向こう側で、生きています。このままでは又いつ襲撃があるか分かりません」



「そこで、今回複数の国で調査隊を結成し、一気に攻め入ります。この作戦は一度過去に行っており、その際は失敗に終わっております。その中には当時対龍ランキング5位の討伐ランキング53位などを始めとする日本の誇る強者を派遣しましたが結果は拿捕され、敵側の戦力として利用されてしまいました。この事実を踏まえた上で我こそは、という方を対象に調査隊選抜チームトーナメントを開催致します」


そのひと言に生徒達は多様な反応を見せた。喜ぶ者、動揺する者、興味の無い者。その中でキャロルの手に力が入るのを守は見逃さなかった。


「皆さんお静かに。このトーナメントは軍全体で行われます。つまり、学生だけではなく現役の軍人や将校も参戦致します。軍所属者全員で8チームを枠を競うトーナメントという訳です。そして、最後のベスト8に残ったチームには絶対に向こう側への調査隊に加わって貰います。拒否権はございません。実力試しで参加するなどという軽い気持ちでの参加はお断りという事です。決意と覚悟を持つ者だけが参加して下さい。詳細は追って連絡致します。では」


そのまま終業式も終わり、興奮冷めやらぬといった様子で教室に戻る生徒達。


教室にて、トーナメントの詳細が説明された。チームは8人~16人で構成する事とし、開催日は3月から1ヶ月かけて上位8チームを選抜するという事だった。勝敗は減点方式、チームの体長が5点を持ち他は1点。5点減点で敗北となる。そしてこのトーナメント中、死亡したとしても責任は取らないという事。


その放課後、武活動で行われるミーティングでは当然その話題となった。


「で、どうすんだキャロル。参加すんのか?」


キャロルは少し目を瞑る。


「わたくし達Eチームは今回のトーナメントには参加致しません。普段通り訓練を行います」


皆、その答えに驚いた。が、無理に参加する事も無い。という事も分かっていた。

それを聞いた千里もほっと胸を撫で下ろす。


武活動も終わり、帰宅の時間。守はキャロルを帰路に誘う。

周りはすでに暗闇で、白い息を吐きながら2人は並んで歩く。


「意外だったな。キャロルなら、『皆さん、明日から特訓ですわよ!!!』とか言いそうだったのに」


「馬鹿にしてますの?」


キャロルは不満げに守を睨む。


「お前、本当は参加したいんだろ。この話聞いてた時、手が燃えてたぞ」


「う・・・うるさいですわね。勝手に見ないで下さいまし。この変態」


キャロルは冬の澄んだ空を見上げ、白い吐息を吐く。


「勿論、このトーナメントに参加したいですわ。上官や将校の皆さんに勝てるか分かりません。もしかしたら勝ってしまうかもしれません。途中棄権は許さない。それはこの作戦も同じ事。向こうに行けばひたすら突き進むのみですわ。御姉様は覚悟をもって参加せよとおっしゃいました。わたくしの我侭で皆さんを危ない目に合わせる訳にはいけません。けど・・・」


「けど・・・だよな。俺は付き合うぞお前に。どこまでも一緒だ」


不意打ちのようなその言葉に、キャロルの顔がみるみる赤くなる。


「あ・・・ありがと・・・。しかし2人では参加も出来ませんわ。この条件は最低でもあと6人は命を預けてくれる仲間を探すという第一の関門ですわ。まずは指揮官としての資質を問われていますの」


「キャロル。お前は考えすぎなんだよ。まず皆に聞きてみなきゃ始まんないだろ。向こうに行きたいって情熱はお前が一番とは限らないだろうが。俺はお前が参加しなくても参加するつもりだったぞ」


「・・・何故ですの」


「俺は俺の生まれた故郷がこの目で見たい。ただそれがけだが、俺はそれに命を掛ける覚悟がある」


「私だって、向こうの世界が見たいですわ。長年憧れた向こうの世界。わたくしにも命を掛ける覚悟がありますわ」


「なら決まりだな。一からメンバー集めだ」


守はキャロルに手を差し出す。


「勿論指揮官はこのわたくし。全ての命を預かる覚悟をここに誓いますわ」


キャロルも守の手を握り返す。


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