第116話 弔問外交
『終焉の日』その日を境に世界の情勢は一変した。人類はその戦いには勝利したものの、多くの問題を抱えるこ事となる。
壊滅的被害を受けたヨーロッパ諸国の復興。その名目で大国同士が覇権を狙う。
アメリア、中国、ロシア、インドなどの大国がこぞって復興支援に手を挙げ、被害を最小限に抑えられ経済的打撃の少なかった日本もこれに加わる。何処の国が何処の地域を担当するか、国際会議でその割り当てが決定し、日本の割り当てはイタリアとギリシャという事が決定した。日本は敵本拠地のイギリス、フランスの支援を希望していたが、そこを狙うは情報を持ち帰ったアメリカ、ロシア、インドも同じ。交渉の末、日本は引き下がる形をなった。
日本の被害は世界的にに見ても被害がかなり少なかったとはいえ、多くの人、物を失ったのは事実。
その復旧に取り掛かると同時に、今回の被害の責任の追及が国会で始まる。
結果、今回の戦いの総指揮者である元帥 神代 誠 にその矛先が向けられた。
罪状は退役軍人への武器及びコアの無断譲渡。前回の向こうへの兵の派遣の失敗が今回の被害に繋がったとし、軍を私物化した事で被害を拡大した。という汚名を着せられ、この戦いの功労者とはされず、除名とし、国を挙げての国葬を執り行わない事を決定する。
加えて、5年前向こう側に派遣された大和隊は、旧階級を剥奪され、神代チルドレンと同じく元帥預かりとなった。
そんな中、
その一段高い壇上に武器を手に持った咲。そしてその隣に剛が立つ。
咲はその一段高い所から集まった、面子を見渡す。年齢は下は3歳、上は18歳まで総勢100名以上が咲に注目していた。咲は小さく息を吸い込み、瞑っていた瞼をゆっくりと開いた。
「聞け!!! お前ら!!!」
その大声に、緊張が走る。
「知ってると思うが、今回の戦いで俺らは勝った。この中にも実際に戦闘に参加した者も居るだろう。その中でこの軍所属特別戦闘訓練院から死者が出なかったのはテメェらの実力だ。良くやった。しかし、失ったものもある」
咲はそこで言葉を詰まらせ、歯を食いしばった。
その様子を剛が横目で見ながら心配そうにしている。
「・・・・・・・・ジジィ、いや・・・神代 誠 が死んだ。それに 神代 雪乃もな。俺らを・・・俺らをクソみてぇな世界からから救ってくれた、父さん、母さんは・・・死んだ!!! 死んだんだ!!! しかも世間からクソみてぇな汚名を着せられて、英雄でもなく逆賊として野垂れ死んだんだ!!! 畜生!!!」
咲はボロボロと涙を流しながら、手に持った武器を地面へと突き刺した。
「俺らはこれから2人の力を借りずに生きていかなきゃなんねぇ。戦わなきゃなんねぇ・・・。だが、分かってるだろうが、勘違いすんじゃねぇぞ。このクソみたいな国の為に戦うんじゃねぇ!!! てめぇらの後ろに居る家族のために戦うんだ! 心配すんな、この俺様とそこの剛がどんな時でも先頭に立っててめぇらを。ありとあらゆるものから必ず守る! 今日から俺らがてめぇらの母親と父親だ!!!」
一瞬静まり返った後、1人、又1人と拍手が起こり、最後には拍手の音で満たされた。
咲は段を降り、その場を去った。
誰も居ない薄暗い通路を歩く咲と剛。
「・・・良く言えたな」
そう言って、剛は咲の頭をその大きな手で優しく撫でる。
その手の下では咲が大粒の涙を流しながら、声を押し殺して泣いていた。
「こっち・・・見んなぁ・・・殺すぞ・・・」
剛はゆっくりと歩き出す。すると、咲が突然後ろから抱き着きその大きな背中に顔を埋めた。
「頑張ろうな」
「・・・うるせぇ・・・」
2人はほんの少し、その暗闇に身を任せた。
世界中が復興に向けて動き出した中、被害を受けた国に参列し弔問を行う行事を執り行うことが国際会議で決定し、各国の代表が一同に集まり、順番に国を訪問する運びとなった。今回最も被害の大きかった、ヨーロッパ周辺を初めとし、順調に各地を回る一団。
そしてついに日本の順番を迎える。日本の順番は最後だった。これは比較的今回被害が少なかったという事に加え、日本を最後にして欲しいという要望を出したという事が理由に挙げられる。
日本に降り立った一団はそれぞれ哀悼の意と平和を取り戻した事。そしてこれからの事を語り、日本での弔問を終えた。
その夜、大久保家の屋敷に濠に降ろされた橋を通って高級車が続々と中へと入って行く。
屋敷の広い食堂に置かれた複数の丸テーブルにはそれぞれ今回の弔問の参加者であるメンバーが座っている。テーブルの中心には何故か氷の入ったグラスが置かれていた。そのテーブルでは中国の代表である李がブツブツと呟く。
「このテーブルの配置・・・納得いかん!」
「そう言うな李。くじ引きで決まったんだ。天命というやつだ」
「まぁ・・・しかしなぁ・・・このメンバーだぞ・・・」
李はテーブルを見回す。そこにはアメリカのアレックスJr.を始め、ロシアのウォルフ、インドのアリャン、イタリアのジェラルド、そして日本のアリーチェが座っている。
「悪いか? 俺だって来たくてここに来たんじゃねぇ」
ウォルフは少し苛立ちながらアリーチェを睨む。
「そうえば元帥が変わったそうだな。誠は死んでしまったからな・・・。惜しい逸材を亡くしたものだ」
「うむ。ジェラルドの言う通り、誠は素晴らしい才を持っていた。しかし、その後任がこれほど若い女性とは・・・」
「アリャンの不安も分かる。誠の後任は並大抵の人間には務まらんぞ。まぁ、それならそれでこちらも助かるんだがな」
アリーチェはその李の言葉に、ニコリと微笑む。
「李さん。今回の戦闘で使用した我が社の開発したQB《クイックボム》というのをご存知でしょうか? いえ、ご存知ですよね? 諜報員からその情報は入手しているはずです」
「・・・それがどうした?」
「あの大爆発を引き起こすのはレプリカコア内に内蔵した、我が社が世界シェア100パーセントを占める部品なんですよ」
その場にいた全員に緊張が走る。
「馬鹿な!!! 部品については全て分解し精査している!!! 問題は無いはずだ!!!」
「大久保元帥、今のは聞き捨てならんな」
アレックスも睨みを利かす。それにアリーチェは再び微笑む。
「ええ、嘘ですよ。例えば・・・の話です。お聞き流し下さい」
ウォルフはそのやり取りを見て、ため息をつく。
「そいつはそういう女だ。油断するなよ」
「ウォルフ、お前何かあったのか?」
「・・・別に」
ウォルフはそっぽを向く。
「所で李」
「何だ? アレックス」
「君は不老不死、長命長寿に興味は無いか?」
再び場の空気が変わる。
「・・・・・・いや、興味ないね。一体何の事だ」
「誤魔化しても無駄だぞ。俺はお前が知っているという事を知っている。諜報員が吐いたからな」
李は表情を変えない。
「そいつの命はお前の態度次第だ」
「さぁ、知らんな」
睨みあう2人。
「2人共落ち着け。アレックス。握り拳とは握手出来ないとい言葉をご存知か? 我々は今回中国を招き入れようという話だったであろう? 」
「・・・アリャンお前が話せ、俺はこいつの顔を見たら腹が立つ」
アレックスは不機嫌そうな顔をして腕を組んだ。
「まぁ李元帥も情報は入手しているだろうが、今回帰還した者は老化の進行が極端に遅いという事が分かっている。それでだ・・・」
「攻め込む」
アレックスが一言放つ。
「・・・アレックス、私に任せるんじゃ・・・」
「なるべく早く部隊を編成し再びこちらから攻め込む。だから力を貸せ、李」
「・・・・・・・・・断る」
「何だと!? この俺が頼んでるのにか!?」
「頼んでる態度じゃないだろ! 前回失敗したのに又過ちを繰り返すのか!?」
「今回は向こう側の情報がある。加えて向こうも戦いで消耗しているはずだ。攻めるなら今だ」
「消耗してるのはこっちもだろ! そんな情報当てになるか」
「何ぃ!?」
「まぁまぁお2人とも、少し冷静に。李元帥。我々は再度部隊を編成し、攻め込むという事は前回部隊を派遣した国でもう決定しております。そしてもう一つ、これもご存知でしょうが、こちらの世界と向こう側の世界の位置情報は一致しています。つまり我々がもし、先に向こうを制圧した場合、自分の国の裏側に他国の軍が駐在する形となります」
「ふんっ。先行軍が制圧した後すぐに部隊を派遣すれば制圧出来る事だろう」
「今回の向こう側への部隊派遣は公表し行います。派遣せずに漁夫の利を得るような行為は世間が認めませんよ」
李はアリーチェを睨む。
そして深くため息をついた。
「・・・一応議会にはかけてみる。後は知らん。いいな」
「ありがとうございます」
アリーチェは頭を下げた。
そこへぞろぞろとメイド達によって料理が運ばれ始めた。アリーチェは席を立ち、部屋の隅にあるマイクの所へ立つ。
「皆様、この度は弔問の為に日本に訪れて頂き、真に感謝致します。故、神代元帥の生前の遺言により、このような宴を開く運びとなりました。そしてこの宴について神代元帥はルールを設けました。『自分の最も好きな酒を持ち寄りそのテーブルの者に振舞う。そして飲んだ側はその酒を決して否定してはならない。良い点だけを言う』というものです。では皆さん、どうぞ楽しんでください」
アリーチェが席に戻るとそれぞれが用意していた酒をテーブルに出していた。
「何だウォルフ。お前梅酒が好きなのか?」
李がウォルフの出した酒を見て言う。
「悪いか? 梅酒はヘルシーだ」
「お、おう?」
「さぁ、料理も来た事ですし、お食事を致しましょう」
酒も回り、会話の弾む中、テーブルの中央に置かれたコップの氷がカランという音を立てた。
会話にかき消されそうなそのその小さな音。しかしテーブルの皆、耳を奪われる。
「おい、李」
「ああ。もしかしたらな」
皆、不思議と天井を見上げた。
大久保家の遥か上空。その上空から見下ろす2人の人影。
それは誠と鬼だった。
「いいのか最後の力をこんな事に使ってしまって。お前は人から信仰が厚い。人より少し長い時間現世に留まれる。しかしそれもここまでだ」
「十分じゃよ」
「・・・なぜ祠の一つでも構えてもらわなかった。祠があり信仰があればお前は神として現世に干渉できたはずだ。俺は忠告したはずだぞ」
「人は与えられた寿命内で出来る限りの事を成す。それ以上はおせっかいというものじゃよ。後は残った者で築いてゆくものじゃ。さ、逝くかの。皆を待たせておる。世話になったのう。鬼よ」
「お前は不思議な奴だ。鬼の力を手にしても、力に溺れず、命の終わりに怯える事もなく、ただ水のように流れようとする。俺が今まで憑いた奴らは皆力に、命に狂った。・・・どうやら俺はお前が気に入ってしまったようだ」
「ほっほっほ。ワシもお主には感謝しかないわい。ありがとう。見つかるといいのう青鬼が」
そう言って誠は消えて逝った。
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