第115話 報告

「まず私達が向こう側に行ってたどり着いた場所は、森でした。というよりも見渡す限りの森林で、そこをドラゴンが複数、悠々と歩いていました。そのドラゴン達は我々の事を臭いか何かで気がついたのでしょう、一斉に攻撃を加えて来ました。これが長い間謎だった、ゲートに入った者が帰って来れない理由の一つだと思います」


「ゲートを通過する際の圧、それを何とかクリアしても次はドラゴンの群れですか・・・。」


「はい。私達は父・・・大和隊長の判断で一度地下へ避難する事にし、富田さんの力で穴を掘り地下へと逃げ込みました。そこで作戦を作戦を練り直します。そして、ドラゴンが近くにいる場合基本的に移動は交代でシールドで囲みながら行う事とし、当初の予定通り周囲の探索を開始しました。その結果、そこは紛れも無く『日本』という事が分かったのです」


「やはり・・・。昔からその可能性は示唆されていました。ドラゴンのDNAや胃袋の中身からしてそこは地球とほぼ同様の天体、もしくは平行世界なのでは・・・と」


「恐竜の出来損ない。っつー訳だな」


「はい。恐らくその仮説通りかと。しかし、問題はその後、帰還を予定していたゲートに人型とクラス5のドラゴンが複数、見張りとして現れました。ゲートを開くのには時間が掛かるので、戦闘を行いながらは無理と判断し、我々は別のゲートを探す事になります。ですが、どのゲートも見張りが付いており私達は行き場を失ってしまいました」


「大和隊長の判断は間違ってはいませんね」


「皆もその意見に納得しました。そして一ヶ月ほど経った頃から持ってきた食料が尽き始めす。私達の部隊は食料係りとして富田さんが居ましたので、持ち込んだ植物の種を成長させたり、野生の動物を捕獲したりしてくれて何とか飢えをしのぎました。ですが・・・」


巫女は言葉を詰まらせの持つカップが少し震え出す。


「そこで、問題が起きたのね。いいのよゆっくりで」


「・・・はい。我々は突然襲撃を受けます。眠る時も交代でシールドを張りつつ、地下に穴を掘っていたのですが・・・。慌てて穴から出た私達は既に囲まれていました。上空には複数の人型、周囲には多数のクラス5。恐らく上空の人型の内1人が探知系の能力を持っていたのだと思います。その戦力差は絶望的でした。大和さんは戦闘覚悟で二番目に近いゲートからの帰還を指示します」


「最寄のゲートは張られている可能性がある見たのですね」


「はい。私達は包囲網をからくも突破出来でき、ゲートへの移動を開始します。ですが、そこで桐藤さんが居ない事に私は気がつきました。父にその事を告げ、助けに戻ろうとすると。父は私を抱きかかえ走り出しました。他の皆も振り返る事無く、目的地に向かって同じように走り出します。それから追いつかれる度に、父に名前を呼ばれた者が1人。又1人と仲間が残り敵を食い止めました。私はただただ泣きながら走り続けました・・・」


「泣いてんじゃねーよ。涙じゃ敵は殺せねぇんだよ」


バンッ! という音を立て、机を叩いた巫女が立ち上がる。


「咲ちゃんはあの場に居なかったからそんな事が言えるのよ!!!」


咲は巫女のその声に驚き、気圧される。それもそのはず。いつも温厚な巫女が始めて見せた怒りだったのだ。


「摑まったら殺されるかもしれない!!!簡単に殺してくれるかも分からない!!!目的を達成する為の時間稼ぎの為だけの捨て駒として残った彼らの気持ちが分かる!? 家族にもう会えない苦しみが貴方に分かるの!?」


憤る巫女をアリーチェが落ち着かせる。


「咲。少し黙っていて下さい」


少し時間を起き落ち着いた巫女は再びゆっくりと話し出す。


「・・・私だって覚悟してるつもりだった・・・。でも心の底ではこのメンバーなら必ず何とかなると思ってしまっていた。どんな敵が現れたって負けるはずが無いと・・・。そして無我夢中でゲートに向かっていた私は、ふと気がつくと・・・さっきまで隣に居た父も姿を消していました」


巫女の涙がコーヒーを波立たせる。


「私は・・・何とかゲートに辿り着き、ゲートを開こうとしたのですが、背後の人型3体に襲撃され、気を失ってしました。目覚めるとそこは洞窟のような牢屋でした。男女別に分けられており、そこには父や皆の姿がありました。任務に失敗した私を責める事無く皆私の体の心配をして下さいました。加えて、この作戦に共同で参加していた他国の人も捕らえられていました。アメリカ・ロシア・インド・オーストラリア・エジプト・タイの部隊はそこに捕らえられていましたが、イタリア・イギリス・南アフリアの部隊の姿はありませんでした」


「今回の戦いの報告で、送り込んだ部隊がやはり多く敵側の兵士としてこちらに送り込まれたと聞いています。ですが、イタリア・イギリス・南アフリカの3ヶ国の部隊は居なかったそうです」


「当然です。私達はその後イタリア、イギリスの部隊の死体の山を見せ付けられる事となります・・・見せしめ・・・だそうです」


「・・・そう。しかし、南アフリアの部隊は一体何処へ行ったのかしら?」


「分かりません。ですが、その後捉えられた男性は定期的に数人ずつ檻を出され、戦闘に狩り出されるようになります。話によると他の地域の侵略の尖兵に使われていたそうです。それは過酷な状況だったと聞きました。後方には人型とクラス5が目を光らせ。加えて探知系能力者が控えており、逃げようとして死体で帰ってきた人も居ました。そんな中、各隊長同士が話し合い、位置情報の収集をする事になります。何度も出撃する内に収容されている場所が現在のイギリスである事が判明していましたので、そこからの移動距離を計算して壁に刻みました」


「イギリスですか・・・。なるほど。それで今回の襲撃はイギリスを中心に戦力が大量投入されてのですね。本拠地がそこにある・・・と」


「間違い無いと思います。多分戦力を集中できる場所がそこしかなかったのかと・・・。あちらの世界において、確かに人型はイギリス全土のを掌握し、ある程度世界の実権を握っては居ますが、それも各地のゲートの付近だけです。南アフリカやブラジル、中国やロシアの奥地。日本でも北海道や九州の一部などのゲートは管理されていませんでした。きっと手が回らなかったんだと思います」


「総戦力はどの位なのでしょう? 何か分かりましたか?」


「・・・分かりません。ゲートを守っているドラゴンもいますので・・・。あ、でも人型はそれほど多くは居ませんでした。とはいっても外出しているのが殆どで全体を把握はできていませんが・・・それでも50は居ないと思います」


「・・・それで、その後は?」


「私を含めゲートに関する力を持った人はイレギュラーゲートの開通に駆り駆り出されました。私1人でゲートの開通は難しいですが、副数人集まればその分楽に開通出来る事を知っていたらしく、時には人型も参加しゲートの開通に勤しみました。基本的にはその繰り返しでしたが、一つだけ分からない事が・・・」


「何かしら?」


「時に戦闘でも無いのに若い男性が呼び出され、何だか恥ずかしそうに帰って来たのを覚えています。聞いても絶対に教えてくれなくて、隠し事をする意味も無いはずなのですが・・・強く口止めされていたのかもしれません。でも何だかその時だけは各国共通で少し盛り上がってました・・・。あれは何なのでしょうか?」


「もしかしたら・・・いや・・・これはまだ憶測に過ぎませんし、もし本当なら少し複雑な事ですので・・・他には?」


「後はもう・・・その日が来て突然洗脳されて・・・私は心の深部にはロックを掛けていたので、一度洗脳が解けてしまえば再度同じ事は防げました。しかし、他の方々は解除まで少し時間がかかるでしょう」


「なるほど。ありがとう巫女。色々と本当によくやりました。しばらく見張りをつけたままここに居て貰いますが宜しいですか?」


「はい。勿論。・・・あの・・・」


「何かしら?」


「私を止めてくれたのは・・・やっぱり・・・優香・・・でしょうか」


「ええ。その通りですよ」


「やっぱり・・・! 自分の殻をとうとう破ったのね・・・。きっと大人になってるわね・・・。もう5年も経つんだもの・・・」


「そうかしら? あなたとあまり変わらないと思うけど・・・」


そう言いかけて少しおかしな事にアリーチェは気がつく。


「巫女・・・あなた・・・。昔と変わらない・・・いや、変わらなすぎるわ」


「・・・そうですか? 確かに老けていないや体が軽い。そんな話も出てました。でも鏡も無かったですし・・・」


「・・・確かに皆、動きに年齢を感じさせませんでした。もしかして向こう側は時の流れが遅い・・・?もしくは与えられた食料に秘密が・・・? 詳しく調べてみる必要がありそうですね」


「アリーチェさん。後一つ。・・・守と有香。それと母さんと話をさせて頂けませんか?」


「ごめんなさい。今守君には別の重要な任務を与えてあります。他にもそれぞれ事情がありますので、それが落ち着けば必ず面会に連れてきますから、それまでお待ちください。・・・では」


アリーチェは巫女を有沈に任せ、部屋を出る。アリーチェが部屋から出た後、後ろから付いていた咲の足が止まる。


「・・・悪かったな」


振り向きもせず小さく呟いた。


「私こそ怒鳴ってごめんね。あと、無事で居てくれてありがとう」


咲は返事もせず、小さく手を上げて病室を後にした。


「ああみえて繊細で照れ屋なのよん。本人に言うと怒るんだけど」


食器を片付けながら有沈が耳打ちする。


「知っています。彼女と私は昔からの、そして今も親友ですので」


「あら、妬いちゃうわん」


廊下をアリーチェと咲が歩く。


「不老不死、もしくはそれに近い可能性があるというなら、各国が黙ってないでしょうね・・・」


「今回帰還した兵を持つ国は、その事に気がついてるはずだ。この情報をどうするか、早急に連絡をつけた方がいいぜ。この情報はかなり使えるカードだ」


「ええ。どこまで公表し、どこまで隠すのか・・・。と、なると当然人型の保有を隠していた日本は責められる訳ですが」


「そいつも、このカード一枚でどうにでもなる事だ。長命長寿の情報・黒龍麟の保有・人型2体の捕獲・人型量産のブラフ。それをどう切るかで世界が取れるぜ。ま、人型量産のブラフはもうロシアに見せちまってる。・・・焦ってるだろお前。急ぎじゃねぇ情報は一度集めて精査し検討しろ。じゃねぇと今回みたいに重要な情報が後から入って来るだろうが」


「大丈夫ですよ。そのカードはまだ私の手の中ですから、不要ならに出来ます」


「おお怖ぇ怖ぇ。ジジィが柔ならてめぇは剛のタイプだな。まっ。俺は嫌いじゃねぇがな」


「で、咲ならどうする?」


「あ? とりあえずアリーナとメイドは殺すな。ジジィはヴェルコフと仲良くやってた。ま、だから今回付け込まれたっつーのもあるが、ロシアも前回向こう側に部隊を派遣した国の一つ、今はその国同士で小競り合いをする事は得策じゃねぇ。ここはロシアに恩を売っとけ。まぁ後は・・・一択だろ」


「私もその一択だと思います」


アリーチェと咲は足を早めた。



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