第114話 ヴェルコフの娘
その場の空気が少し重くなる。
「それで、あなた方2人は今回ここ、日本で何をしていたのかしら?」
「・・・こちらから言える事は何も無い。以上だ」
「アリーチェ御姉様。こいつら絶対喋らないって。ロシアの部隊。加えてあのヴォルコフの娘だぞ?」
「まぁその時は・・・不慮の事故が起こるかもですね」
アリーチェは2人に微笑む。
少し間が開いた後、アリーナは口を開く。
「我々はロシアに出現した人型を追いかけて日本までやって来た。それだけだ。人型の捕獲。それが任務。今回の戦いで出現した人型の多くは最後に周囲を巻き込み木っ端微塵に爆発した。生き残っている個体はその一体のみと報告を受けていた。・・・いや、一体のみのはずだった」
アリーナは守を睨む。
「一体何者なんだそいつは・・・オスの個体なんて今までの情報にはなかった。日本周囲に駐在していた人型もメスだったはず」
「ああ、この彼は日本が量産しているドラゴンと人のハーフです」
守は驚きつつも動揺を表には出さない。
「何だと・・・!? そんな事が出来るはずないだろう!!!」
アリーナは立ち上がり叫ぶ。
「出来るか出来ないかではありません。現実、あなた方はその目で確かめたのではありませんか?」
アリーナは渋い顔を浮かべ、ゆっくりとソファーへと座る。
「・・・あの黒いドラゴンもこいつか」
「・・・やはりそれも追っていたのですね。しかし、その鱗の持ち主はこの子ではありません。他の個体です」
「一体何体の人型を保有しているんだ?」
「さて、何体でしょうね。あとこれを見て下さい」
アリーチェが手を叩くと外からメイドが布の被った何かを運んで来た。
その布を外すと刀が一振り姿を現す。
その刀を鞘から抜き机の上へと置いた。
「これはその黒龍麟を加工して打った刀です。どうぞ。手にとってご覧下さい」
ヴェロは何処からとも無く取り出した手袋をはめ、刀を手に取る。
「・・・軽い」
「クラス5の龍麟鉱より2割程度軽く、強度クラス5より上です」
「お嬢様・・・! これ、私欲しいです♪ 素晴らしいですよ!」
「ヴェロが言うならその性能は本物だな」
ヴェロは刀を鞘に納めテーブルの上へ置く。
「私を始末する時はこの刀でお願いしますね♪・・・どうせ生きては返さないのでしょう?」
「当然だ。でなければ軍事機密を教えるはずは無い」
アリーチェはニコリと微笑む。
「逆ですよ。生きて帰さないというのなら最初から見せる必要がありません」
「・・・私たちを情報拡散の為に利用しようという訳か」
「さぁどうでしょうね? 私たちは日本に遊びに来たあなた方をおもてなしした。その際色々な事を見聞きしてしまった。それだけですよ」
アリーナは腕を組み、目を瞑る。
(パパは言ってた。神代 誠 亡き後の日本は必ず弱ると。果たして本当にそうか・・・この女・・・)
「勿論。すぐに開放という訳には参りません。近い内にお父様、ヴぇルコフ元帥がお迎えに来るはずですので、それまではこの大久保家でお預かり致します。逃げられてもヴェルコフ元帥に合わす顔がありませんので、液状発信機を注射させて頂きますがよろしいですか?」
「液状発信機? 何だそれは」
「名前の通りですよ、それを打つと暫くの間位置情報をこちらで確認できます。その内分解されますので健康に被害はありません。あなた方程になると発信機ごと手足程度なら千切って逃げることも十分に考えられます。首ですら安心出来ません。了承して頂けますか?」
「こちらに決定権は無い」
「ではこちらへ」
アリーナとヴェロは別の部屋に通され処置を受けた。
「さて守君。向かいますか」
「何処へ?」
「牢屋ですよ」
「俺またあそこに入れられるんですか?」
「いえ、捕獲した人型の様子を見に参ります」
「エレナは先ほどの2人をよろしくお願い致します」
「ほいよ」
襲撃を受けた牢屋の場所に戻る守。大きく開いた穴は早急に復旧が行われていた。
再び地下室に戻り、守たちが投獄されていた部屋とは別の部屋へと向かう。
そこも同じく牢獄になっており、先ほどの人型2体がドラゴンの力を封じる首輪を装着され、投獄されていた。その前に咲と小春が立つ。
「咲さん! 無事でしたか!?」
「見たら分かんだろうがボケ。立って息してりゃ生きてんだろ」
「もうっ。咲はもう少し言い方考えたら? 守君可愛そうじゃない」
「もう慣れました」
「慣れてんじゃねぇ!!!」
「はいはい。皆そこまで。で、小春。人型はどんな様子かしら?」
「言い争ってますね・・・どうやらこの人型はまだ今回の戦闘を負けてないと思っているようで・・・ちょっと守君も聞いてみてくれる?」
人型は守を見るなり、檻に詰め寄りドラゴンの言葉で叫ぶ。
「だから違うって言ってるだろ!!! 俺はお前らの仲間じゃねぇ!!! 日本生まれ日本育ちだ!!!」
守も檻に近づこうとするがそれをアリーチェに止められる。
「とりあえず部屋で聞きましょうか」
隣の部屋に移動した守達はカメラ越しに人型を観察する。
「守君。何て言ってるか分かる?」
守はモニターを見ながら眉をしかめる。
「彼女ら・・・言い争ってますね。でも日本の人型の方はもう敗北したと理解しているようですが、妹?の方も理解しつつも認めたくないといった感じですね。お父様? 怒る? 彼女らには父親がいてその人の指示で動いてるみたいです」
「あら、守君そんなに聞き取れるの? 私抜かれちゃったかも」
「なるほど。ありがとう守君。あと貴方にお願いがあるんだけど、ここで小春と2人で引き続き情報収集をしてくれないかしら?」
「えっ。」
守が小春をチラリと見ると。不気味な笑顔を浮かべ、少し涎がこぼれている。
「それって断れるんですか・・・?」
「勿論強制はしないけど、守君も彼女らの事気がかりでしょう? 彼女らの保護者としても居てくれないかしら? それに小春はドラゴントレーナーで守君はその補佐官でしょ? 適任だと思うけど」
「さ・・・咲さんとじゃ駄目ですか!?」
咲は驚き一瞬固まる。
「ふ・・・ふざけんな! だれがテメーなんかと2人きりになるかボケ! 慣れろ! 得意なんだろお前」
「もう、守君~。お姉さんとじゃ嫌なの~? 手を出したりしないわよ~? 私一応既婚者だし~? 大丈夫ですよ 大久保 元帥!」
小春はアリーチェに敬礼をする。それはそれは綺麗な敬礼だった。
「そう。じゃあよろしくお願いしますね。・・・さて、私達は巫女と大和さんの所に向かいますか」
「!? そういえば、父さんと巫女姉はどうなったんですか!?」
「大和のオッサンは今、洗脳の解除中だ。巫女の方の洗脳深度は表面だけだった。深部には自らロックかけてやがったんだ。あいつは正気だ。俺が保証する。とりあえず今から事情聴取をするがな。じゃ。頑張れ」
咲はニヤリと笑い、小さく舌を出した。
ドアの閉まる音がし、部屋には守と小春が残される。外からガチャッと鍵のかかる音がした。
恐る恐る小春の方を向くと、目をギラギラと輝かせ涎をたらし、息遣いが荒く高揚しているのが分かる。
「ハァハァ守君・・・やっと2人きりになれたね・・・」
「お・・・落ち着いて下さい!!! 目がヤバイですって!!!」
後ずさりする守の腕を小春が掴む。
(しまっ・・・!!!)
その凄まじい力で引き寄せられ押し倒される。
「小春さんやめっ・・・んぐ」
小春は守の上にまたがり、手に口を突っ込んできた。
「大丈夫よ~。ほら力を抜いて頂戴。あー歯が再生しかかってるのね。凄いわぁ~・・・。一本貰ってもいいかしら?」
「んうぎゅ!!!」
「え? ありがと~!!!」
「ンンンンンンーーー!!」
ドア越しにその悲鳴を聞く、アリーチェと咲。
「ケッ。ざまーみやがれってんだ」
「そんな事言っても守君の事が可愛いんでしょ? 『咲さんとがいい』って言われた時の貴方の顔。可愛い顔しててましたよ」
「だっ・・・誰が!!! ふざけんなテメー殺すぞ!!! あんなクソガキに興味はねぇ!!!」
「はいはい。そうですね」
咲は不機嫌そうにそっぽを向く。
「・・・あいつは生意気だが使える。それだけだ」
アリーチェはニコリと微笑む。
「貴方に似てますね」
「どういう意味だコラ!!!」
病棟に到着した2人はある部屋の前につく。その入り口には有沈をはじめ、その部下達が周囲の警備に当っていた。
「おい、有沈てめぇ抜かれやがったな。お陰で苦労したんだぞコラ」
「ちょっとちょっと! あたしだって一応、拳護ちゃん止めたのよ!? あの2人相手に1人でも相打ち出来たんだから褒めてよねん!?」
「部下のサポートあってだろうが。しっかりしやがれ。俺はクソザコに後任を譲るつもりはねぇぞ」
「咲ちゃんそれって・・・ あたし・・・頑張る!!!」
「さ、扉のロックを解除してくれるかしら?」
有沈はカードをかざし暗証番号を入力した。真っ白な扉が開く。すると中には巫女が床に正座をし、瞑想を行っていた。その瞳がゆっくりと開く。
巫女はそっと床に指をつき、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「お帰り。巫女。長期間の厳しい任務お疲れ様でした。さ、頭を上げて下さい。あなたが謝る事など何もございません」
「・・・私たちは・・・やはり人を殺したのでしょうか?」
巫女は床に頭を伏せたまま、声を絞り出すように出す。
「いいえ。あなた方がこちらに送り込まれた際、私達が相手を致しました。皆、誰も殺さず殺されず。収束致しましたよ。元帥の名に誓って嘘ではございません」
その瞬間巫女は勢い良く顔を上げる。と、同時に涙が床に飛び散った。
「良かった・・・。やっぱり父さんや皆の判断は正しかったんだ・・・よかった・・・本当によかった・・・うぅ・・・うわぁああん!!!」
泣きじゃくる巫女をアリーチェがそっと抱きしめる。
「本当に良く戻ってまいりました。辛かったでしょう。苦しかったでしょう」
「うん。もう駄目かもって何回も思った。死んだほうがマシって。でも、でも、その度に周りの皆が助けてくれて・・・それで・・・」
「わかりました。落ち着いてからで構いません。今はとにかく吐き出して下さい」
巫女は子供のように泣き続けた。
しばらくして落ち着いた巫女は、部屋に用意された椅子に座る。
そこへ有沈がコーヒーを運んでくる。部屋一杯にコーヒーの良い香りが充満した。
「あら、有沈。コーヒーを淹れるのが上手なのですね。うちのメイドにも勝るとも劣りません」
「うふん、嬉しいわん♪」
「当然だ。俺の部下なんだからな」
「流石、咲部下。しっかりしてるわね。しっかりしないと・・・ね」
「アリーチェてめぇ! おちょくってんのか」
そのやり取りを見て巫女はクスクスと笑う。
「ケッ。やっと元通りになりやがったな巫女」
「咲ちゃんは昔から変わってないね。嬉しい」
「うるせぇ」
少しの間談笑した後、アリーチェはコーヒーカップを置いた。
「さて、そろそろ聞かせてもらおうかしら? あちらで何があったのかを」
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