第113話 襲撃

立ち上がった咲は即座にエマージーシークラッカーを地面に叩き付ける。


現れた人型は守と咲に見向きもせず、人型の収容された檻を尻尾で破壊した。

そして人型同士でなにやら会話をし始めた。


『守! 会話を読み取れ!』


咲は大和の相手をしながら、心伝術で守に伝える。


「首・・・鍵、逃げる、急ぐ・・・です! すみません全部は無理です!!!」


「ケッ。こいつを持って何とか逃げろ!!!」


咲はポケットの鍵を守に投げ渡す。


「咲さんは!?」


「クソガキに心配されるほど落ちぶれてねぇぞクソが! 救援まで逃げ回れ! 人型が2人解き放たれたら対処のしようがねぇだろうがボケ!!! 援護する! 突破するぞ!」


咲はメスで大和を牽制し、降りてきた人型に飛び掛る。

人型の尻尾での攻撃を紙一重でかわした咲は、その腹に拳を突き立てた。


「飛んでなきゃ少しはイけるんだよ! 守! 行け!!!」


守は人型の降りてきた穴から一気に外へ出る。それをすぐさま人型も追いかけてきた。


(咲さん・・・!)


守は翼を出し、全力で逃げる。しかし、人型の飛行速度の方が速く、次第に距離を詰められていく。


その様子を高いビルから様子を見ている2人組みがいた。

軍服を着た小柄な女性とメイド服を着た同じく女性。


「見つけた。ヴェロ」


「ですねーお嬢様♪」


「でもあれは何? 情報に無い個体」


「人型みたいですし、どちらも捕まえてしまいましょう♪」


人型に追いつかれそうになった守は突然体が動かなくなり、空中に静止した。

慌てて辛うじて動く首を動かし、後ろを振り向く。すると人型も同じく身動きを封じられていた。

と、一気に力が下へと働き、上空から地面へと激突した。


「何だってんだ一体・・・!!!」


何とか立ち上がる守だったが、相変わらす体に何かがまとわり付いたかのように重い。


すると守の目の前に先ほどの小さな少女が宙に浮かんだまま近づき、遅れてメイドの女性がふわりと舞い降りる。


「お前らは何者なんだ!?」


メイドの方は背中に携えた刀を抜き、歩いて近づいて来る。


「あれ? 貴方は日本語が達者ですね♪ 日本で確認されている人型とは情報が違いますが・・・」


「ヴェロ。この人が喋ってるのは日本語?」


「はい。でも何て言っているのかわっかりませーん♪ とりあえず2人共捕まえてしまいましょう♪」


ヴェロは刀を高く振り上げ振り下ろす。


しかしその一刀は空を切った。


「あれ~?」


間一発かわした守は距離を取る。


「ありがとう楓ちゃん!!! 助かった!」


守の後ろでは楓が両手を前に構えている。


「大丈夫お兄ちゃん!? お母さん達のお見舞いとコアを返しに病院に行こうとしてたら、強力な念動力を感じたの・・・、そしたらお兄ちゃんがいて・・・あの人たちは誰!?」


「分からない!」


ヴェロは刀を下ろし、小柄な女性を見る。


「ちょっとアリーナお嬢様ー、ちゃんと縛ってて下さいよー」


「違う。私の念動力を上回る力で外された」


ヴェロは驚く。


「アリーナお嬢様の超念動を? へぇ・・・」


「うん。2つに割いてたとはいえ・・・それもあんな小さい子にね」


アリーナは楓を指差す。ヴェロはアリーナと楓を交互に見る。


「あんまり変わらないですね♪」


「うるさい。仕事しろ」


「はーい♪」


ヴェロは刀を構えなおす。


「どうするの!? 守お兄ちゃん!?」


(楓ちゃんを巻き込む訳にはいかない・・・でも、人型を何者かに奪われる訳にもいかない。戦うしか・・・ない!!!)


「楓ちゃんごめん! 俺が戦う! 力を貸してくれ!」


「・・・うん!」


守は龍の力を引き出し徐々に体が鱗に包まれて始める。その姿にその場にいた全員が驚く。


「ヴェロ気をつけて。人型にあのタイプの報告は無い」


「私が負けるとでも? ありえないですー」


そう言いながらもヴェロの表情が引き締まる。


(こっちから仕掛ける必要は無い・・・時間を稼ぐ・・・ツッ!!!)


その考えを見通していたかのように、ヴェロが仕掛ける。

ヴェロの攻撃は刀を主体としつつもを、しなりを聞かせた蹴打を繰り出してくる独特の動きだったが、守は劣勢ながら何とかこれに対応することが出来た。


一旦距離を取った2人はにらみ合う。


「へぇ・・・。人型が武術をねぇ・・・。しかも正当な。加えて刀との戦いも慣れてるみたいですねぇ」


(優香姉とエルダよりか動きは見える・・・!)


「ヴェロ。強化する。はやく終わらして。最初の用件を忘れないで」


アリーナはヴェロに手をかざす。


再び攻撃を仕掛けて来たヴェロ。先ほどよりもスピード、パワーが格段に上昇しており、受けきれなくなった守は腹部に蹴りをモロにもらい、弾き飛ばされた。


それを楓が念動力で受け止め、衝撃を和らげる。


「お兄ちゃん大丈夫!?」


「ああ・・・大丈夫だ」


(出力を上げるか・・でも意識が飛べば二の舞に・・・)


ヴェロが地面を蹴り、追撃を加えてくる。


楓は守に手を当て、ヴェロを念動力で弾き飛ばした。

体制を建て直し、アリーナの隣に着地するヴェロ。


「アリーナお嬢様!? 念動力使われちゃってますけど!?」


「・・・超えられた。あの子と私は貴方達に互いに念動力の干渉を受けさせないように、ずっと攻防していた。それを一瞬だけ抜かれた。実力を隠していたわけじゃないはず、出力が上昇した。なぜ」


「もしかして、あの人型の能力ですか?」


「・・・コア。人型には高クラスのコアが内臓されている可能性が高い」


「なるほど・・・で、どうします?」


「全部捕まえ持ち帰る」


「・・・了解♪」


アリーナはポケットからもう一つコアを取り出しそれを口に含んだ。


「お兄ちゃん! 逃げ・・・」


楓の言葉は間に合わず、アリーナの元へ凄い力で引き寄せられ始める。


「だめっ・・・すごい力・・・勝てない・・・!」


楓も抵抗するも少しずつヴェロへと寄っていく。


(畜生・・・こうなったら!!!)


守が龍の力を解放しようとしたその時、その場にいた全員を包み込むようにシールドが張られた。


「そこまでよ」


守の後方から女性がゆっくりと歩み寄る。


「巫女姉!?」


「本当に大きくなったわね守」


(父さんはまだ洗脳されていた・・・。この巫女姉ももしかしたらまだ・・・)


守は警戒しながら巫女を見る。


「あら? もしかして信用されてない・・・? 当然で正しい判断だわ」


「ごめん巫女姉、今は信用出来ない!!!」


守は楓を抱きかかえて距離を取る。


「行動で信用して貰うしかなさそうね」


巫女は念動力で動けない人型と、アリーナ達を見る。


「ロシアに送られた人型と・・・子供とメイドさん? とりあえず全員を捕獲しましょうか」


巫女が睨みを利かせると。3人がシールドに包まれる。


「はい。捕獲完了・・・あら」


アリーナを囲んでいたシールドが砕け、アリーナが脱出する。


「凄まじい念動力ね」


「アリーナお嬢様逃げて下さい! 1人なら逃げられます!!!」


「アリーナ・・・? もしかして貴方ウォルフ元帥の娘さん?」


「・・・」


「あーそうか、言えないわよね。でもまぁとりあえず投降してくれるかしら? 援軍も来たことですし」


気がつけば博皇・アリーチェ・エレナの3名が現場へ到着しこちらへ歩いて来る。


それを見たアリーナは両手を上げ降参を申し出た。



豪華絢爛に飾られた部屋の中、これも高価であろうふかふかなソファーに守は座っていた。

何度か来た事がある大久保の屋敷。しかし、この応接室は初めてだった。

普段ならこのような部屋に招かれたならワクワクしたかもしれない。このメンバーでなければ。


同じくソファーに座っているのはアリーチェとエレナ。その対面には先ほど捉えられたアリーナ。そしてヴェロはその後ろに立っている。


何やら話しているがロシア語で話しているらしく全く聞き取れない。


そこへ英斗が部屋に入って来る。


「やぁ。久しぶりアリーナ。大きくなったね」


「なってない」


「ははは。これは失礼した。何か飲むかい?」


「・・・いらない」


そっぽを向くアリーナに英斗は困ったような表情を浮かべる。


「そんなに警戒しなくてもいいよ。君のお父さん。ヴォルコフ元帥とは取引相手だ。その娘の君に失礼な事はしないさ」


「・・・コンポート」


「私はウォトカで♪」


「あはは。ヴェロ君はまだ未成年だろ?」


「ヴェロはもう18歳を超えてる。実際は・・・」


「お嬢様」


ヴェロは圧の強い笑顔をヴェロに向けた。


「分かった分かった。お酒はお土産に持たせよう。今日はコンポートで我慢してくれ」


「守君は飲み物、何がいいかな?」


ロシア語が聞き取れずポカンとしていた守は、急に話しかけられ動揺する。


「の・・・飲み物ですか!?えっと・・・ホットミルク! 蜂蜜入りで・・・」


「分かった用意しよう。それとこれを」


英斗は守にインカムを渡す。


「自動翻訳機だからつけてみたらいい。守君はロシア語分からないだろう」


守はインカムをつける。


「お嬢様もホットミルクじゃなくて良かったんですか~?」


「うるさいぞヴェロ」


「人型なのにホットミルク、しかも蜂蜜入り飲むなんて変わってますね~」


「わ・・・悪いか!? 咄嗟に思いついたのがそれだったんだよ!」


「人型は家畜を襲って食べてるイメージなんですが、あと・・・人。」


ヴェロは冷徹な瞳で守を見る。


「何だと!?」


「まぁ落ち着いて下さい。ほら、飲み物が来ましたよ」


部屋がノックされ屋敷のメイドが飲み物とお菓子を運んで来た。

それをひとつずつテーブルの上に置いていく。


「さ、どうぞ」


ヴェロは片膝を付く。


「失礼致します」


そう言ってアリーナの飲み物を口に含む。舌の上で転がした後、ポケットからハンカチを取り出し、それに小さく吐き捨てた。


「大丈夫です♪ あと、凄く美味しいです♪ あ、なんなら私が全部頂いても?」


「ありがと。だめ」


守も届いたホットミルクに口を付ける。


口の中に広がる芳醇な香り、そして濃厚な味は素材の良さを感じさせた。


(旋風さんは無事だったのかな・・・それに聖や三四郎・・・他の皆も無事だったらいいけど・・・)


「さて・・・そろそろお父様は部屋から退出してくださるかしら?」


「おっとすまない。ここからは軍部の機密に触れるな。終わったら呼んでくれ」


英斗は部屋を去る。


「さて・・・そろそろ本題に入るとしましょうか。」


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